SH4377 中国:ゼロコロナ政策の終焉と今後の法的問題(下) 若江悠(2023/03/24)

風評・危機管理

中国:ゼロコロナ政策の終焉と今後の法的問題(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 若 江   悠

 

(承前)

3 法的問題についての影響

 今後日本企業の中国事業において予想される問題やリスクについて若干検討する。

 上海ロックダウンのさなかの5月に掲載した記事(SH4022 中国:上海ロックダウンとその影響、関連する法律問題(1) 若江悠(2022/06/09))および(SH4023 中国:上海ロックダウンとその影響、関連する法律問題(2) 若江悠(2022/06/10))では、ロックダウンに伴う法律問題について述べたが、今回の転換を受けて若干補足が必要である。まず、新たなコロナ対策方針のもとでは、できるだけ社会の正常な運営を保証するとして、ピンポイントに高リスク地区に指定された場所(上海などでは、そもそもそのような指定すら行われなくなったようにみえる)を除き、人員の流動を制限してはならず、操業停止や営業停止等を行ってはならないとされている。そうすると、ロックダウンなどの「疫情対策措置」が政府当局により行われることは想定しがたいと思われる。他方で、まさにそうであるからこそ、今後、各地で感染拡大が発生し、サプライチェーンや物流の各ステップを担う各当事者による期限通りの契約履行が不可能となる事態は予想されうる。その場合にやはり問題となりうるのは、不可抗力による免責(民法典590条1項)、契約解除(同法563条1項1号)である。また、履行可能性があっても契約の基礎的条件に重大な変更が生じた場合は、(人民法院では実際のところなかなか認められづらいが)事情変更として契約変更や解除を請求しうるとされている(民法典533条)。2020年に最高人民法院が出した指導意見等は引き続き適用されると思われるが、疫情(感染拡大)の不可抗力該当性と、契約の履行に与えた影響(因果関係)については、個別具体的な認定がなされるものとみられるところ、これまでと異なり、政府によるロックダウンなどの明確な「疫情対策措置」が実施されないとすると、感染発生時に各企業が行った操業停止や減産などの対策措置が果たして正当であったのか、代替策がなかったのかなどの事情が検討の対象となり、これまで以上に不可抗力や事情変更を証明することは難しくなると予想される。

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(わかえ・ゆう)

長島・大野・常松法律事務所パートナー。2002年 東京大学法学部卒業、2009年 Harvard Law School卒業(LL.M.、Concentration in International Finance)。2009年から2010年まで、Masuda International(New York)(現 NO&Tニューヨーク・オフィス)に勤務し、2010年から2012年までは、当事務所提携先である中倫律師事務所(北京)に勤務。 現在はNO&T東京オフィスでM&A及び一般企業法務を中心とする中国業務全般を担当するほか、日本国内外のキャピタルマーケッツ及び証券化取引も取り扱う。上海オフィス首席代表を務める。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

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当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ、ジャカルタ及び上海に拠点を構えています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

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