◇SH2438◇ベトナム:日系企業のベトナムビジネスにCPTPPが与えうる影響(3) 井上皓子(2019/03/29)

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ベトナム:日系企業のベトナムビジネスにCPTPPが与えうる影響

(3)労働分野――結社の自由及び団体交渉権の承認

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

3 労働分野――結社の自由及び団体交渉権の承認

 労働分野について、CPTPP19.3条は、各締約国が、自国の法律等において、ILO宣言に述べられた以下の採用・維持すべき4つの権利を規定している。

  1. ・ 結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認
  2. ・ 強制労働の撤廃
  3. ・ 児童労働の実効的な廃止及び(子ども兵士、売春等の)最悪の形態の児童労働の禁止
  4. ・ 雇用及び職業に関する差別の禁止

 また、同条は、最低賃金及び労働時間等の労働条件を規律する法律等を採用し、維持することを規定する。

 ベトナムにおいて特に大きな影響を及ぼすと考えられるのは、このうち結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認についての規定(19.3.1(a)条)である。

 ベトナムは社会主義国家であり、ベトナムにおける労働組合は、単に労働者の権利を擁護するために使用者と団体交渉を行う役割を担うだけではなく、政治・社会組織として国家運営に参加することが想定されてきた(労働組合法1条参照)。このことから、ベトナムにおいては、労働者が労働組合を結成し、加入し、活動する権利はあると謳われている一方で(労働組合法5条1項。なお、外国人を除き、社長等の管理者を含む企業の構成員の全てが加入対象である。)、明文規定はないものの、実務上、共産党の指導に従い運営されるベトナム労働総同盟の傘下にある労働組合のみが認められている。

 しかし、CPTPPの発効により、ベトナムにおいても労働分野での結社の自由を認めることとなったことから、ベトナムにおける労働組合制度は根本的な改変を迫られることとなった。今後は、現在認められていないベトナム労働総同盟の傘下にない労働組合の成立が認められることとなると理解される。

 ただし、ベトナムは、締約国中唯一、CPTPPの労働の章に定める義務全般については3年間、特に結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認にかかる義務に関しては5年間の留保が認められることとなった(ベトナム政府と各国政府との間の交換公文による)。留保期間中は、各締約国は、これらの義務に適合しない措置について、CPTPP28.20条に規定する利益の停止の措置を行わないこととされている。ベトナムは、この留保期間中にCPTPPに沿った内容になるよう労働組合制度の改革を行うことが期待され、実際、現在議論されている労働法の改正案の中には、複数の労働組合が併存することを認めるための規定が見受けられる。その結果、2024年1月14日以降、社内で複数の労働組合が併存する可能性がある。

 

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