◇SH1710◇タイ:東部経済回廊(EEC)法案の最新状況 箕輪俊介(2018/03/16)

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タイ:東部経済回廊(EEC)法案の最新状況

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 タイ政府が現在力を入れて進めている、同国中部の経済特区「東部経済回廊(EEC=Eastern Economic Corridor)」の開発に関して、この開発の基本的なコンセプトを規定した東部経済回廊法(EEC法)の法案が2018年2月8日に国家立法議会(National Legislative Assembly)の承認を得た。この法案はタイ国王の署名を経て、3月中にも法令として公布されることが予定されている。

 EECについては多くの文献で既に解説がなされているが、本稿ではこの法案の解説(主にどのような産業に対してどのような恩典が予定されているか)及び今後これを利用するにあたって確認をするべき点に焦点を当てて解説したい。

 

1. EEC法案の概要

(1) 管轄官庁

 他の省庁から独立した機関として、EEC委員会が設立される。

(2) 対象地域

 対象県内の、特別恩典地域として特定された地域である。どこが特別恩典地域となるかは、今後下位規則にて定められる。

 対象県としては、チェチュンサオ・チョンブリ・ラヨンの3県が明記されている。これに加えて、東部タイの県のうち、下位規則によって指定される県が今後対象地域として追加される可能性がある。

(3) 対象産業

 タイランド4.0にて標榜されている10の分野に渡る産業。すなわち、①次世代自動車、②スマート・エレクトロニクス、③ツーリズム、④農業・バイオテクノロジー、⑤未来食品、⑥ロボット産業、⑦航空・ロジスティック、⑧バイオ燃料とバイオ化学、⑨デジタル産業及び⑩医療ハブである。

 なお、タイランド4.0とは、これまでのタイの経済社会発展を3段階に区分し、今後目指す目標を第4段階として示したものである。上記の3段階は、農村社会や家内工業を中心とした戦前の工業化以前の第1段階、工業化が進み、軽工業や輸入代替等が進展した戦後の第2段階、外資を積極的に誘致し、重工業や輸出指向が進展した第3段階で構成され、第4段階は、その次の段階として、イノベーション等をキーワードとする付加価値を持続的に創造する経済社会が念頭に置かれている

(4) 恩典の内容

 詳細はまだ決定されていないが、法案には恩典のコンセプトとして大要以下のものが規定されている。

  • 関税、従業員の個人所得税、法人所得税の減免
  • プロジェクト対象土地を賃借する場合、賃借の期間は最長50年とすることが可能であり、更に最大49年の延長をすることが可能(民商法上は、賃借の期間は最長30年であり、延長期間も最長30年)
  • 外国人労働者のビザ・ワークパーミットの取扱いにおける優遇
  • 恩典取得者がプロジェクトの進行にあたって必要な許認可を取得するに際し、許認可の管轄官庁が異なり、通常は各省庁にそれらを申請しなければならない場合において、可能な限り許認可申請を一本化させる(ワンストップセンターの設置)

 

2. 今後特に注意をして確認をするべき点

(1) 対象地域

 恩典を受けることのできる特別恩典地域は既述の通り未だ公表されていないため、今後公布される下位規則を確認する必要がある。なお、2018年2月1日に開催されたECC委員会では、現在存在する工業地域(19カ所)はかかる地域に含まれる方向で協議が進められていたようである。

 また、各特別恩典地域において恩典の対象となるターゲット産業が個別に指定される可能性があるため、この点についても注意が必要である。

(2) 対象産業

 対象産業についても、上記のように大枠は公表されているものの、それ以上のものは公表されていない。対象となるプロジェクトの具体的内容及び要件については、今後の実務の動向や下位規則の内容を確認する必要がある。

(3) 恩典の内容

 上述のとおり、恩典の内容も明らかではない部分があるので、下位規則の公布を待つ必要がある。特に、税務恩典は通常のBOIの税務恩典に加えてどのような恩典が与えられる可能性があるのか、確認をする必要がある。

(4) 申請手続

 EECの恩典申請はECC委員会に対して行うことが予定されているようであるが、具体的にどのような手順で申請手続を進めることが求められるのかについては、今後公布される下位規則等を確認する必要があろう。

 

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