中国:広告法の改正について
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 若 江 悠
企業による広告活動に関しては、日本では景表法や不正競争防止法の規制を受けるほか、宅建業法や医薬品医療機器等法(旧薬事法)など個別業種に関する法律による規制もあり、また公正競争規約として認定されたものを含めた業界の自主規制も定められている。これに対し、中国では、中国国内で行われる広告活動全般に関して「広告法」がおかれ、同法に基づき主に工商管理部門が規制当局となって直接的な規制が行われている。広告法は1994年に制定されたが、2015年4月に全面的な改正が行われ、9月1日に施行される。以下では中でも注目を要する内容を紹介する。
1 適用対象の拡大
現行法上の責任主体である広告主、広告代理店及び広告媒体に加えて、改正法では広告に出演するタレント等のイメージキャラクター(代言人)も追加される(2条)。イメージキャラクターは、広告の中で商品・サービスを推奨又は証明する場合には、事実に基づき、また広告法及び関連法令の規定を遵守しなければならず、自らの使用経験がない商品又は受けたことがないサービスを推奨又は証明してはならないとされる(38条)。
2
インターネットや電子メール広告の広まりを受け、特別な規定がおかれる。インターネット広告は、ユーザーのインターネットの正常な使用に影響を与えてはならないとされ、特定のポップアップ広告が罰則をもって規制される(44条、63条2項)。また、電子メール等による広告についても、発信者を明示した上受領者によるオプトアウトができるようにしなければならないなどの規定がおかれる(43条)。
3 広告内容規制の細分化と強化
現行法でもすでに一部の商品についての内容規制がおかれていたが、改正法では、保健食品、薬品、医療器械、教育・研修、投資商品、不動産等について、商品及びサービスの分野ごとに広告内容に関するルールがさらに具体的に規定される。たとえば保健食品は新たに規定がおかれ、効能・効果や安全性を断言し又は保証する内容、疾病の予防及び治療機能に関わる内容等が禁止されるほか、医薬品の代替にはならない旨を見やすく表示しなければならない(18条)し、薬品や医療器械と同様に、事前審査を受ける必要もある(46条)。また、粉ミルク等を母乳の代替になるものとして大衆的メディア又は公共の場所において広告することが禁止される(20条)し、たばこは大衆的メディア又は公共の場所における広告に加えて、公共共通機関及び屋外における広告も全面的に禁止される(22条)。
4 処罰の詳細化、厳罰化
虚偽広告に関する罰金が、現行法では広告費用の1倍~5倍となっていたのが、3倍~5倍へと強化されるともに、広告費用の計算が不可能又は明らかに低い場合は20万元~100万元の罰金を科す旨が追加された。重大な場合には営業許可証の取消しもなされうる(55条)。虚偽広告には、性能・効能、産地、生産者、販売実績等が実際と異なる場合のほか、根拠となる調査や統計が虚偽である場合も含まれる(28条)。虚偽広告に関する民事責任としては、消費者の生命健康に関わる商品又はサービスの虚偽広告により消費者が損害を蒙った場合、広告代理店、広告媒体及びイメージキャラクターは広告主とともに連帯責任を負う。それ以外の商品又はサービスの虚偽広告についても、虚偽の広告であることを明らかに知りながら又は知るべきであるのに当該広告を設計、製作、代理、発信又は推奨・証明した場合には損害を被った消費者に対し連帯責任を負う(56条)。
上海浦東空港に掲示されていた工商局による「広告法に関する広告」