特別養子制度の利用促進で民法等改正案が国会に提出される
――対象年齢の上限引上げなど、制度創設以来初めての改正へ――
政府は3月15日、「民法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会(衆議院)に提出した。昭和62年の民法等改正(同年法律第101号。63年1月1日施行)で創設された特別養子制度を初めて見直すこととなる改正により、同制度の利用を促進する狙い。
平成30年6月4日に開催された法制審議会第181回会議において当時の法相から見直しに関する諮問がなされ(諮問第106号)、同日設置が決定された特別養子制度部会(部会長・大村敦志東京大学大学院教授)で調査審議を行ってきた。同部会では第5回会議(同年10月9日開催)において「特別養子制度の見直しに関する中間試案」を取りまとめ、10月12日〜11月11日の間、意見募集。31年1月29日開催の第10回会議で「特別養子制度の見直しに関する要綱案」を全会一致で決定し、2月14日に開かれた法制審議会第183回会議ではこれを原案として全会一致で採択、法相に「特別養子制度の見直しに関する要綱」を答申していた。
未成年者を養子とする場合に利用することができる養子縁組の制度として、民法は「普通養子縁組」の制度と「特別養子縁組」の制度とを設けている。いずれも養子となる者の利益のための制度であるところ、特別養子縁組においては「実方父母との法律上の親子関係の終了、離縁の原則的禁止、戸籍上の特別の措置により、実親子関係に比肩し得るような強固で安定した法的枠組みを与えることができ、この法的枠組みの中で、養子は自己の家庭内の地位に疑念を抱くことなく、養親は後顧の憂いなく養子の養育に専念することが可能となり、養親子の心理的安定が確保される。また、実方親族等からの養親子関係への干渉の可能性が大幅に減少する」とされる。しかしながら、保護者のない児童、被虐待児など家庭環境上養護を必要とし、社会的養護のもとにある児童の数は28年末時点で約4万5,000人にのぼるのに対して、特別養子縁組の成立件数は年間約500件で推移。児童福祉法の28年改正法附則や同年6月2日閣議決定「ニッポン一億総活躍プラン」においても「特別養子縁組制度の利用促進の在り方」はかねて検討課題とされており、(ア)養子の年齢要件、(イ)実親の同意の撤回の制限、(ウ)「特別養子縁組の成立の審判」の申立権者を含む成立手続等が論点とされてきた(以上、公益社団法人商事法務研究会「特別養子を中心とした養子制度の在り方に関する研究会中間報告書」(平成30年6月)2〜5頁参照)。
改正後においては「昨今問題となっている、実親による監護に困難な状況がある子どもたちに対して、家庭的な環境で養育される機会を広げる」(平成31年2月1日の閣議後記者会見における法相発言)ものと期待される。
改正案の柱は(1)養子となる者の年齢の上限を引き上げる措置を講じるとともに、(2)「特別養子適格の確認の審判」の新設、(3)「特別養子縁組の成立の審判」に係る規定の整備、(4)児童相談所長が「特別養子適格の確認の審判」の手続に参加することができる制度の新設など。これまでは原則6歳未満であった対象年齢が(1)により「15歳未満」とされ、15〜17歳の場合も、①養子となる者が15歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合において、15歳に達するまでに民法817条の2(特別養子縁組の成立)に規定する請求がされなかったことについてやむを得ない事由がある、②本人の同意があるといった要件を満たせば縁組が可能となる。
審判は上記(2)および(3)のように2段階に分けられ(新設される家事事件手続法164条の2第3項により申立ては同時にしなければならない)、養親となるべき者の申立てにより、家庭裁判所は「特別養子適格の確認の審判」をすることができる。民法817条の6本文による実親の同意は2週間を経過した場合、撤回することができない。また「特別養子縁組の成立の審判」において実親の陳述を聴く必要はなくなり、告知することも要さない(ただし、住所等が知れている実親に対しては、審判をした日および審判の主文を通知しなければならない)。
上記(4)は児童福祉法の改正による措置で、児童相談所長が「特別養子適格の確認の審判」を申し立て、その手続に参加することができるものとする。
改正法が成立した場合、公布日から1年内の政令指定日に施行される。施行の際に係属中の「特別養子縁組の成立の審判」に関する養子となる者の年齢要件および当該審判事件の手続はなお従前の例によることとされるほか、必要な経過措置については公布日に施行されることになる。