法務担当者のための『働き方改革』の解説(29)
年次有給休暇の時季指定義務
TMI総合法律事務所
弁護士 成 田 知 子
XV 年次有給休暇の時季指定義務
1 使用者の年次有給休暇の時季指定義務の新設
労働者の健康で文化的な生活の実現に資するため、労働基準法上、一定の要件を満たす労働者に対して、継続勤務期間に応じた日数の年次有給休暇(以下「年休」という)が付与される(労基法39条1項及び2項)。
しかし、職場への気兼ね等を理由として日本における有休消化率は諸外国と比較して低く、厚生労働省の調査でも、その消化率は平均して5割以下にとどまっている。
このような状況を踏まえ、この度の法改正により、使用者の年休の時季指定義務が新設された。すなわち、従来は、労働者から申し出がなければ、使用者側から年休取得を促す法的義務はなかったが、平成31年4月1日以降、使用者は、年休の付与日数が10日以上の労働者に対し、5日については、時季を指定して取得させなければならなくなった(労基法39条7項 )。
なお、使用者が本義務に違反した場合、労働基準監督署から是正勧告等を受ける可能性があるほか、30万円以下の罰金に処せられる可能性がある(労基法120条1号、121条1項)。
2 年休の時季指定義務の概要
(1) 対象者
対象者は、年休の付与日数が10日以上の労働者であり、管理監督者や有期雇用労働者も含まれる。フルタイム労働者の場合、出勤率が8割以上であれば、入社後6ヵ月以上経過すれば年10日の年休の権利が発生する。他方で、パートタイム労働者など、所定労働日数が少ないため年休が比例付与される労働者の場合であっても、出勤率が8割以上であれば、週の所定労働日数が3日の場合には入社後5年6ヵ月、所定労働日数が4日の場合には入社後3年6ヵ月以上経過すれば、年10日の年休の権利が発生するため対象となる。
(2) 付与すべき時期
使用者は、上記対象労働者のうち、年休消化日数が年5日未満の労働者に対して、年休を付与した日(以下「基準日」という)から1年以内に、年休の時季指定を行う必要がある。使用者が法定の基準日に沿って年休を付与している場合には、当該基準日から1年以内に5日間の年休を取得させれば足りる。
他方で、使用者が統一的管理等の観点から、法定の基準日より前に年休を付与した場合等の取扱いは、概ね以下のとおりである(労基法施行規則24条の5)。
- ア 法定の基準日より前に10日以上の年休を付与した場合には、前倒しされた基準日を起算点として1年以内に5日の年休を取得させる必要がある。
- イ 入社2年目以降の社員に対する基準日を統一するといった要請等から、10日以上の年休を付与した基準日から1年以内に、再度、年休を付与した場合には、(ア)それぞれの付与日を基準として年5日取得させる方法に加えて、(イ)最初の基準日から次の基準日の1年後までの期間において、当該期間内で期間按分した日数(当該期間÷12×5日)の年休を取得させる方法をとることも可能である。
- ウ 法定の基準日より前に10日に満たない年休を付与した場合には、付与日数の合計が10日に達した日から1年以内に5日の年休を取得させる必要がある(なお、付与日数の合計が10日に達した日より前に、労働者が年休を取得した場合には、当該日数は、5日から控除する)。
(3) 意見聴取
使用者が時季を指定して年休を取得させる場合には、時季について労働者の意見を聴く必要がある。また、使用者が年休の時季を指定する際には、聴取した労働者の意見を尊重するよう努めなければならない(労基法施行規則24条の6)。
(4) 就業規則への規定
年休の時季指定に関する事項は、休暇に関する事項であり、絶対的必要記載事項であるから、就業規則への記載が必要となる(労基法89条1 号)。
(5) 年休管理簿の作成
使用者は、年休を与えたときは、その時季、日数及び基準日を労働者ごとに明らかにした書類(以下「年休管理簿」という)を作成し、当該年休を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存しなければならない(労基法施行規則24条の7)。なお、年休管理簿は、労働者名簿又は賃金台帳とあわせて調製することができる(労基法施行規則55条の2)。
3 実務対応
労働者が自ら取得し、または、使用者が計画年休制度により取得させた日数については、使用者は年休の時季指定義務から解放される(労基法39条8項)。そのため、使用者は、労働者の年休取得状況を正確に把握し、年休が確実に消化されるための対策を練ることが重要である。
(1) 基準日管理
各人の入社日を基準として個別に年休を付与している場合、その管理が極めて煩雑となるため、年休付与の基準日を統一することを検討すべきである。
(2) 年休を確実に取得させるための方法
労働者に確実に年休を取得させることが重要であるところ、使用者の事務負担を軽減しつつ、これを実現するためには、主として以下の方法が考えられる。
- ア 計画年休制度(労働基準法39条6項)による方法
- 使用者は、①全労働者一斉に、②グループ別に交代制で、又は③個人別に、計画的に年休を取得させることができる。
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労使協定の締結が必要となるが、ほぼ確実かつ計画的に時季指定義務を果たすことができ、労働者への意見聴取手続を行う必要がないという利点がある。
- イ 基準日と同時に時季指定を行う方法
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事前に労働者への意見聴取を行った上で、使用者が基準日と同時に時季指定を行うことにより、時季指定義務の履行期限直前に、慌てて時季指定を行うといった事態を避けることができる。特に、過去の年休取得の実績から、年休の取得日数が明らかに少ない労働者に対しては、当初から時季指定を行うことにより年休の取得を促進することができる。
- ウ 基準日から一定の時点で5日から年休の取得日数を控除した日数を時季指定する方法
- 任意の時期に年休を取得したいという労働者のニーズに一定程度応えることができる。また、一定の時点(例えば基準日から半年経過後)までに5日以上の年休を取得した労働者は時季指定の対象から外れ、また、その他の労働者についても5日に満たない日数のみが対象となるため、会社の事務負担軽減に資する。
なお、労働者が計画的に年休を取得できるよう、年休計画表の作成を促す等といった方法を併せて採用することも有益である。
以上