◇SH2775◇公取委、「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」に対する意見募集を開始 大櫛健一/足立理(2019/09/12)

未分類

公取委、「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」に対する意見募集を開始

岩田合同法律事務所

弁護士 大 櫛 健 一

弁護士 足 立   理

 

 本年8月29日、公正取引委員会(以下「公取委」という。)において、「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」(以下「本ガイドライン案」という。)が発表され、本ガイドライン案に対する意見募集が開始された。

 

1 本ガイドライン案の意義

 デジタル・プラットフォーマー(以下「DP」という。)とは、第四次産業革命下で情報通信技術やデータを活用して第三者に多種多様なサービスの「場」を提供する事業者をいう。DPにおいては、独占化・寡占化が進みやすく、競争優位の維持・強化が発生しやすいとされ、個人情報その他の情報(以下「個人情報等」という。)の取得・利用と引換えに商品役務を提供するビジネスモデルを懸念する声もある(本ガイドライン案1頁)。

 本ガイドライン案は、独占禁止法上の優越的地位の濫用規制(以下「濫用規制」という。)の適用に関する透明性及びDPの予見可能性を向上させる観点から、優越的地位が認められる場合と問題となるDPの行為を整理している点に意義がある。

 

2 優越的地位ガイドラインとの関係

 公取委は、従前から「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「優越ガイドライン」という。)において、濫用規制に関する基本的な考え方を公表していた。本ガイドライン案は、優越ガイドラインに沿って策定されている一方で、以下に述べるとおり、従来よりも踏み込んだ解釈やDPとの関係で具体化された解釈を含むものである。

 

3 取引の相手方

 従来、濫用規制においては取引の相手方が事業者に限られるか否かが、一応論点となっていたが(白石忠志『独占禁止法〔第3版〕』(有斐閣、2016)421頁)、本ガイドライン案は、取引の相手方に消費者が含まれることを明らかにしている(同2)。

 

4 優越的地位

 優越ガイドラインにおいては、優越的地位の判断基準として、取引の相手方にとって「(事業者との)取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す」ことが挙げられていた(同第2の1)。

 これに対し、本ガイドライン案では「(事業者から)不利益な取扱いを受けても,消費者が当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合」に優越的地位が認められるとし、かかる場合にあたるか否かの判断に際しては、①代替サービスの有無、②サービスの利用停止の困難さ、③DPによる取引条件の決定力等を考慮するとされる(同3)。

 上記①及び②については、優越ガイドラインにおいても、いわゆる「取引先変更の可能性」(同第2の2(3))として考慮されていたものであり、かつ、学説においては「取引先変更の可能性」は最も重要な考慮要素であるとの指摘が有力になされていたが、DPとの関係でもあらためて重要な考慮要素として位置づけられていることが見て取れる。

 上記③においては、DPが「その意思で、ある程度自由に……取引条件を左右することができる地位にある場合」には、通常、当該DPに優越的地位が認められるという下位準則が明らかにされている。「その意思で、ある程度自由に……」という記載は、優越ガイドラインには記載がなく、DPによる問題行為以外の場面でも通用性があるのか、今後の議論の蓄積が待たれる。なお、当該記載は競争の「実質的……制限」(独占禁止法2条5項など)に関する裁判例[1]においてみられる文言である。

 

5 濫用行為

 本ガイドライン案は、6つの行為類型と7つの想定例を示すことで、DPによる濫用行為を一定程度明らかにしており、これらをまとめると、要旨以下表のとおりとなる。なお、いずれの場合も、独占禁止法に加え、個人情報保護法その他の法令も問題となり得る。

濫用行為となる行為類型 想定例(付番は本ガイドライン案において対応する想定例)
利用目的の不告知・非公表下での取得 DPが、個人情報を取得するに当たり、その利用目的を自社のウェブサイト等で知らせることなく、消費者に個人情報を提供させた。【①】
目的範囲外の取得・利用 DPが、あらかじめ示した利用目的に必要な範囲を超えて、個人情報を消費者に提供させ、又は、消費者の同意を得ることなく個人情報を利用した。【②、⑤】
安全管理措置未整備下での取得・利用 DPが、個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を提供させ、又は、利用した。【③、⑦】
同一サービスの継続の対価としての追加的な取得 DPが、提供するサービスを継続して利用する消費者から対価として取得する個人情報等とは別に、追加的に個人情報等を提供させた。【④】
同意のない第三者提供 DPが、サービスを利用する消費者から取得した個人情報を、消費者の同意を得ることなく第三者に提供した。【⑥】

 

6 正常な商慣習

 本ガイドライン案では、上記行為類型に限られず、DPによる個人情報等の取得・利用が、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる場合には、優越的地位の濫用として問題となると述べる(同5⑴及び⑵)。

 DPによる事業は、近年において急速に拡大・利用が進んでおり、そこでの商慣習を把握することは容易ではないように思われるため、「正常な商慣習とは何か」は引き続き難問である[2]

 


[1] 東京高等裁判所判決昭和26年9月19日(いわゆる東宝・スバル事件)高等裁判所民事判例集4巻14号518頁など。

[2] 「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものをいうとされるものの(優越ガイドライン第3及び本ガイドライン案4)、ここから具体的な解釈・判断を演繹的に導き出すことは困難であろう。

 

タイトルとURLをコピーしました