租税における公平の実現
第6回
首都大学東京法科大学院教授・弁護士
饗 庭 靖 之
第2 配当所得や利子所得と他の所得との課税の公平
(5) 申告分離課税制度の不当性
現行制度では、「総合課税に代えて15%の税率による申告分離税を選択できることになっている(租特8条の4第1項)」ことは、配当所得を、所得課税の原則である総合累進課税の外に置くことは、上記の立法裁量性の範囲外であり、他の所得が総合累進課税されていることとの間では公平性を欠いている。
申告分離課税制度の配当所得を総合課税の外におくことは、他の所得が総合課税されていることからは、大島訴訟判決で示された違憲判断基準である「立法目的からみて、区別の態様が著しく不合理であることが明らか」であるおそれがあり、立法裁量性の範囲を逸脱しているおそれがあると考えられる。
分離課税することは、所得の種類に応じた実質的公平を確保する手段にとどまるのであって、高所得者において、配当所得者が現行の配当所得分離課税制度で得ているような他の所得との間で不平等を招く税制は許されない。株主の配当所得については、他の所得と区別する合理性はないので、総合課税により、個人の場合は総合課税で累進課税を、法人の場合は総合課税で比例課税を行うべきである。
これに対し、個人の場合に、給与所得者には給与所得控除があり、事業所得者は経費の控除制度があるのに対し、これらの所得を得ていないで、もっぱら配当所得に依存している者には、経費の控除制度に相当する所得控除制度があってもよく、現行制度で、総合課税を選択した者に認められている配当控除制度(剰余金の配当等のうち、他の所得と合わせて1000万円以下の部分については、1000万円以下の部分は10%、超える分の5%が税額から控除される)は、立法裁量性の範囲内であると考えられる。
また、法人税法で、法人が内国法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配等(以下「受取配当等」という)は、その全部または一部を益金の額に算入しないものとされており、完全子法人株式等、関係法人株式等、連結法人株式等の他の株式については、配当等の額の50%を益金に算入しないこととされている(法人23条1項、81条の4第1項・7項・8項)も立法裁量性の範囲内であると考えられる。
5 所得税における利子所得の他の所得との課税における公平性
(1) 利子所得の現行制度
所得税法上、利子所得は、特別措置として、すべて他の所得と分離して一律に比例税率(15%、住民税と合わせて20%)(租特3条、3条の3)で源泉分離徴収される等して課税されている。
この制度は、利子所得の発生の大量性、ならびに元本たる金融商品の多様性および不動性にかんがみると、簡素で中立的な制度が好ましいという理由による。[1]
所得税が源泉徴収制度を採用していることとの関係で、法人も所得税の納税義務者とされており(所得税5条3項・4項)、法人に対して支払われる利子・配当についても、個人に対して支払われる場合と同様に、それを支払う者に源泉徴収の義務を課しており(所得税212条3項)、法人は支払いを受ける利子・配当等について、源泉所得税の納税義務を負わされる(所得税174条、175条)。受取利息は、その全額が益金の額に算入されるが、二重課税を防止するため、源泉徴収された所得税額は、法人税の税額から控除される。
(2) 利子所得税制の不当性
利子所得について、所得税で分離軽課税されていることは、現行制度で、配当所得につき分離課税を選択できることと平仄を合わせているが、前述のとおり、配当所得につき分離課税を選択できることは、立法者に認められた裁量権の範囲を逸脱しているおそれがあり、利子所得を総合課税の対象にしないことも、他の所得が総合累進課税されていることと異なる取扱いをする合理性が見出されず、租税における公平を欠くので、徴税の容易のために源泉徴収されていることにかかわらず、総合累進課税の対象とすべきである。
[1] 金子宏『租税法〔第22版〕』(弘文堂、2017)210頁