◇SH2516◇LIXILグループ、株主提案に関する書面の受領 鈴木実里(2019/05/07)

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LIXILグループ、株主提案に関する書面の受領

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 実 里

 

1 はじめに

 株式会社LIXILグループ(以下「LIXILグループ」という。)は、2019年4月19日、株主から、同年6月に開催予定の株主総会の目的事項(取締役8名選任の件)及び議案について提案があったことを公表した[1]。近時、株主提案権の行使は増加基調にあり、本件トピックスのようにその行使が耳目を集めるものも少なくないことから、あらためて株主提案権の制度について解説したい。

 

2 株主提案権

 会社法(以下、単に「法」という。)では、株主が株主総会に議題等を提出等する制度として、①議題提案権、②議案提案権、③議案要領通知請求権が定められ、これらを併せて株主提案権という。

 

3 議題提案権

 議題提案権とは、株主が一定の事項を株主総会の目的とすること(例えば「取締役選任の件」)を請求する権利(法303条)をいう。

 議題提案権の対象となる事項は、請求株主が議決権を行使できる事項に限られる(法303条1項)。取締役会設置会社の場合、株主総会は、会社法の規定する事項及び定款で定めた事項に限り決議をすることができるので(法295条2項)、株主が提案できるのも、定款の変更(法466条)、役員等の選任・解任(法329条1項、339条1項)等に限られる。

 議題提案権の行使要件は以下のとおりである。

  公開会社 非公開会社
取締役会設置会社 取締役会非設置会社
保有期間要件 6か月前(定款により緩和可能)より保有 なし なし
持株要件 総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権(定款により緩和可能) 総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権(定款により緩和可能) なし
行使要件 株主総会の日の8週間前まで(定款により緩和可能) 株主総会の日の8週間前まで(定款により緩和可能) なし

 

4 議案提出権

 議案提出権は、株主が株主総会の目的である事項につき議案(例えば「甲を取締役として選任する件」)を提出する権利(法304条)をいう。議案が法令・定款に違反する場合、あるいは実質的に同一の議案が3年以内に総株主の議決権の10分の1(定款により緩和可能)の賛成票を得られていなかった場合は認められない(法304条ただし書)。

 

5 議案要領通知請求権

 議案要領通知請求権は、株主総会の目的である事項につき株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知することを請求する権利(法305条)を指す。

 議案提出権と同様に、議案が法令・定款に違反する場合、あるいは実質的に同一の議案が3年以内に総株主の議決権の10分の1(定款により緩和可能)の賛成票を得られていなかった場合は認められない(法305条4項)。

 議案要領通知請求権の行使要件は、取締役会非設置会社の行使要件が、株主総会の日の8週間前まで(定款により要件緩和可能)となること以外は、議題提案権と同様である。

 

6 近時の株主提案権の傾向

 全国の証券取引所(新興市場を除く。)に上場されている国内会社2653社に対して行われた、平成29年7月から平成30年6月までに開催された定時株主総会についての調査結果(回答会社の総計1727社)によれば、上記期間に開催された株主総会において行使された株主提案権は、延べ56社、62件(提案株主別の件数)であり、行使事例のうち、株主提案議案が可決されたのは、4社であった。提案内容を見ると、例えば、電力会社9社を含めて34社で123個の定款一部変更議案が提案され、特定の主義・主張を目指した運動型の議案も見受けられた一方で、役員報酬の個別開示や相談役・顧問の廃止といった、機関投資家や個人株主の賛同を得られそうな内容のものも少なくなく、また、経営権の争奪を含む役員の選任・解任を内容とする提案もなされている[2]。本件におけるLIXILグループに対する株主提案権行使は、同社の現職の取締役でもある株主からの提案である点に特色がある。同社においては、今回の提案株主である取締役のうちの1名が代表執行役を退任する旨の経営体制の異動が昨年10月に発表されている。その後、今回の提案株主である取締役のうちの1名を含めた株主らから異動後の代表執行役の解任を求める臨時株主総会の招集許可申立てが行われるなどLIXILグループの経営権を巡って様々な動きがある中で今回の株主提案が行われているようであり、その行方が注目されるところである。なお、株主提案の前日においては、LIXILグループの定時株主総会における取締役選任議案の候補者は選定中とのことである[3]。前述のとおり株主による議題提案権は株主総会の日の8週間前までに行使する必要があることから、会社提案の取締役選任を待たず株主提案が行われたものと考えられ、株主提案による取締役候補者の選定が会社提案の取締役選任議案に先行する形となっていることも注目される。

 

7 会社法改正の動き

 株主提案権は、株主の会社経営者に対するチェック機能を果たすとともに、株主と会社のコミュニケーションを図る重要な制度である一方、株主提案権の行使を受ける会社側の負担も大きく、特に、一人の株主が膨大な議案を提出する等といった濫用的な株主提案への対応には相応の負担が生じる。

 法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会は、2019年1月16日、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」を決定した[4]。上記要綱案には、株主総会の遅延や混乱を目的とした濫用的な株主提案を防止するため、株主が提案することができる議案の数の制限や目的等による議案の提案の制限についても盛り込まれた。

 株主総会を開催する会社としては、会社法改正を注視しつつ、適法な株主提案は真摯に受け止め、濫用的な株主提案には毅然とした態度で対応し、適法かつ適切に株主総会を運営することが求められる。



[2] 調査結果の詳細については、旬刊 商事法務 No.2184(12月5日号)2018年版株主総会白書参照。

 

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