インドネシア:BANIの分裂とその後
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 小 林 亜維子
1. BANIの分裂
2016年9月、インドネシアで最も利用されている仲裁機関であるBANI(Badan Arbitrase Nasional Indonesia)が分裂したと、突如報じられた。従来のBANIの他に、新たに新生BANI(BANI Pemabaharuan)という機関が設立されたのである。今回は、BANIの分裂とその後について紹介したい。
BANIは1977年に設立され、上記のとおり、その後インドネシアで最も利用される仲裁機関としてその地位を確立した。BANIは、 100人を超える仲裁人リスト(インドネシア人のみならず外国人も含む)を有し、紛争を解決してきた。
2016年9月に新生BANIが設立されたが、それに対して、BANIは新生BANIの存在を認めず、「BANI」という名称を利用することは違法である旨の声明を発表した。諸説あるものの新生BANIが設立されるまでには、以下のような事情があったと報道されている。新生BANIを支持するメンバーは、BANIの設立証明書において、BANI創設者らの地位と責任は、BANI創設者らの相続人に移行するものと規定されている旨主張したものの、BANIにおいてはそのような対応がなされなかったため、BANIの機関としてのステータスに疑問を持ち、新生BANIを設立したというわけである。
2. BANIと新生BANIとの間の紛争
新生BANIは、その後、2016年9月29日、BANIの理事会のメンバーに対して、不法行為に基づく訴訟を南ジャカルタ地方裁判所に提起した。これに対して、同年12月1日には、BANIが新生BANIに対して、その設立および登録に関してジャカルタ州の行政裁判所に行政訴訟を提起した。行政裁判所においては、BANIが勝訴したものの、2017年8月22日に出された南ジャカルタ地方裁判所の判決においては、新生BANI側が勝訴した。なお、地方裁判所及び行政裁判所の判決が確定したという情報はなく、報道によれば、それぞれの当事者が上訴をしている。
さらに、2017年6月には、新生BANIはBANIの保有する商標権の取消しを求めて商事裁判所に訴訟を提起している。商標法によれば、商標の登録申請を行うことができるのは、個人または法人であるとされているところ、BANIが有効な法人ではないにもかかわらず商標の申請を行ったことが悪意のある申請であるとして訴えを提起したのである。この訴訟は、現在係属中である。
3. 契約書上の仲裁条項
中国の仲裁機関CIETACの分裂の際にも問題になったが、BANIの分裂に際しても、①既に締結している契約に仲裁条項が含まれる場合にどちらの機関が管轄を有するのか、及び②今後締結する契約の仲裁条項をどのように記載するべきなのかという点が問題となる。まず、①について、BANIを仲裁機関として指定する契約が分裂以前に締結されている場合、契約締結時点では従来のBANIのみが存在し、現時点でも引き続き存続している(連続性が認められる)ため、従来のBANIに管轄があると解することが一般的である。また、②については、従来のBANI又は新生BANIのいずれかを選択する場合、名称で区別するとともに、将来の紛争を防止すべく、住所を記載する等の方法で、いずれを選択したかが明らかになるようにすることが望ましいと考える。
現在係属している訴訟の結果によっては、上記の解釈等に変更が生じる可能性がある。したがって、今後、紛争の動向についても注視していく必要がある。