◇SH2723◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(186・完)コンプライアンス経営のまとめ⑲ 岩倉秀雄(2019/08/20)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(186・完)

―コンプライアンス経営のまとめ⑲―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、日本ミルクコミュニティ(株)の「チーム力強化の取組み」と創業当初の失敗と再建の成功要因についてまとめた。

 日本ミルクコミュニティ(株)の新役員は、組織文化が異なるが故に団結力が弱く経営効率が悪化しやすい合併会社の特性を認識し、独自の組織風土を新たに作るチーム力強化」に取り組んだ。

 具体的には、①人事評価に、「チームへの貢献」項目を設け、チーム貢献の高い者の評価を1ランク上にする、②懇親会の費用を補助する、③チーム力強化アイディアを募集し全社に案内する、④コーチング研修を実施する、⑤自己啓発を補助し、大学に寄付講座を開設する、⑥従業員の意識・組織風土調査を継続し、組織・人事制度の改善に役立てる等である。

 創業時の失敗は、①準備期間不足、②たすき掛け人事と出身会社主義、③組織文化と経営管理手法の違い、④取扱アイテム・取引先・物流ルート・営業拠点・工場の絞り込み不足等によるものであり、構造改革プランの成功は、①経営方針の明示と現場への浸透、②経営と現場の一体感の強化、③給与体系と評価制度の改革による不公平感の払拭、④売上に合う工場、物流・営業拠点の再編、不採算アイテム・取引先の整備、⑤退職者不補充による人員削減、資材・物流・管理等あらゆる費用の削減、収支管理の徹底、⑥チーム力強化の取組み等によるものであった。

 本稿は今回で最終回となることから、筆者の主張のまとめを述べる。

 

【コンプライアンス経営のまとめ⑲:筆者の主張のまとめ】

 筆者は、「組織がコンプライアンス経営を実施するためには、コンプライアンスを組織文化に浸透・定着させる必要がある」という主張を、組織論(特に組織文化論、組織行動論、組織心理学)と実践経験を踏まえ、様々な組織状況を想定して、以下の理論的・実践的考察を行った。

  1. 1. 組織文化は、組織が成功するにつれて形成された組織メンバーに共有され、無意識のうちに行動に影響を与える暗黙の価値観(含規範意識)であり、その形成・革新には、経営トップが決定的に重要な役割を果たすが、同時に、全階層を巻き込み、その役割とパワーに応じた取組みが必要である。
     
  2. 2. 組織文化の革新は、自然発生的な進化論的革新よりも、経営トップが主導する計画・管理された戦略的な革新(揺さぶり⇒突出と手本の呈示⇒革新の増幅と制度化)が有効であり、革新が成功するためには移行過程の管理が重要である。
     
  3. 3. 革新は、推進力(生き残りの不安)>抑止力(学習することの不安)でなければ起きないが、革新を起こす最善の方法は、ビジョンを明確にし学習不安を取り除くことである。
     
  4. 4. コンプライアンス経営には、制度と組織文化の両面からのアプローチが必要で、特に不祥事発生組織では組織文化に問題がある場合が多く、組織文化を迅速・ドラステックに変える必要がある。
  5.    コンプライアンス経営で重要なことは、①代表権を持つ経営トップが、コンプライアンスに強力にコミットする、②コンプライアンス部門に強力な人材を配置する、③革新を阻む動きに断固とした措置をとる、④コンプライアンス定着度評価アンケートや従業員相談窓口により組織実態を把握し、問題を発見した場合には誠意をもって直ちに対応する(事件は内部告発から発覚しやすく、リスクを背負うより対応するほうが、コストがかからない)、⑤革新の影響を受ける中間管理職を革新の中核にする、⑥コンプライアンスに関する優秀な実行者を発表会等で表彰し、革新の象徴とする、⑦教育・訓練を徹底し、旧文化の棄却と新しい価値の学習をセットで実施する等、である。
     
  6. 5. 危機管理の最上の策は「危機の予防」であり、最も重要なものは、「経営者のマインド」なので、経営トップが、リスク管理や危機管理の重要性を共通認識化し組織文化にビルトインする必要がある。
  7.    具体的には、経営トップは現場のマイナス情報がもみ消されない風通しの良い組織文化を作るために、自ら率直なコミュニケーションを行って範を示すとともに、減点主義の組織文化や専制的マネジメントスタイルに陥らないように注意し、それを中間管理職層にも徹底させ、従業員との信頼関係を構築する必要がある。
     
  8. 6. 合併組織では、単一の組織に比べて、組織文化の違いによるコンフリクトが発生しやすく、かつコンフリクトの顕在化を制御する統制力(公式権限や調整のメカニズム)が十分に機能しないので、コンフリクトの顕在化によるマネジメントの困難度が高くコンプライアンスの浸透・定着は難しい。
  9.    特に、出身会社主義による組織文化の衝突と処遇への不公平感、マネジメント手法の違いによる評価格差、コミュニケーションギャップ等、様々な問題が発生することを認識し、経営者は、①経営理念と行動規範、ビジョン、戦略・戦術を明示し、徹底的に従業員に説明し共有化する、②経営層や中間管理者層が一般従業員に役割モデルを示し、職場におけるとるべき行動を具体的に示す、③合併会社における業務の進め方とスキルを明示し、教育・訓練(含評価者訓練)により身につけさせ不安を解消する、④調整給等による給与格差を新会社に持ち込まず、同一労働同一賃金にする、⑤組織構成員が納得できる新たな組織文化の形成を促す等、が必要である。
     
  10. 6. 企業グループのコンプライアンスでは、(親会社の組織文化が天下り経営者を通じて子会社に遺伝しやすいことを認識し)親会社は、子会社の経営実績だけではなく、コンプライアンスの組織文化への浸透実態もチェックする。
     
  11. 7. 業界全体のコンプライアンス体質にも、注意が必要である。
     
  12. 8. 歴史と伝統のある組織は、時の経過の中で、組織文化が硬直化し変質する場合があるので、創業の理念と組織文化の有効性は常にチェックする必要がある。(優れた創業の理念も伝える努力をしなければ、変質し失われる)
     

 本稿は、今回で一区切りにしますが、読者のみなさん、本稿の執筆を勧めていただき原稿にも目を通していただいた商事法務研究会代表理事専務理事石川雅規さん、商事法務営業部長兼総合企画室長佐藤靖司さん、長期にわたり編集を担当していただいた商事法務総合企画室佐藤庸平さんに、心より感謝申し上げます。

(完)

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