ベトナム:ベトナム人材の日本への人材紹介への投資
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
日本での改正入国管理法の施行を受け、外国人材の活用の機運が高まっている。近年ベトナムからの技能実習生の受入人数は、国別で第一位になっており、多くの日本企業が、ベトナムからの人材の受け入れに関心を有している。このような流れを受けて、ベトナム人の日本企業への人材紹介に関連する事業において、ベトナムでの投資を検討したいというご相談をお受けすることも多くある。
その際に、もっともよく話題に上るのは、日本で有料職業紹介事業を行っている会社が、ベトナムで人材募集をするための現地法人を設立するというものである。しかしながら、ベトナムの法制度上これを実現するには課題がある。
日本の技能実習制度においては、制度上ベトナムで認可された送出機関と日本の監理団体が契約し、両機関を通じて実習生が受入企業に配属され、技能実習が行われる団体監理型が一般的である。ベトナムの法制上、このような制度に則って実習生の送り出しを行う送出機関は、100%内国資本であることが求められている(政令第126/2007/ND-CP号第2条)。したがって、日本企業が出資した現地法人は送出機関としての認可を得ることはできないし、日本企業が既存の送出機関の株式を取得することもできない。
よくある誤解としては、このような送出機関との契約が必要なのは技能実習生についてのみであり、技能実習制度の枠外で高度人材や特定技能の資格で日本に来る人材については、送出機関以外でも有料職業紹介を行うことができる、というものがある。
しかしながら、ベトナムの法令では、送出機関と国内で有料職業紹介を行う企業の活動範囲は区別されており、異なる法律で規律されている。国内の有料職業紹介事業は、「職業紹介機関等の事業活動」(ベトナムでの事業分類コードでは7810)に該当し、労働法及びその関連施行細則等で規律されている。他方、国外への労働者の送出業務は、「海外で勤務する労働者の提供及び管理業務」(同コードでは7830)に分類される。この事業について規定するのは「契約に基づいて海外で勤務するベトナム人労働者に関する法律」であるが、同法では、上記団体監理型の契約形態ではなく外国企業と直接労働契約を締結するベトナム人労働者についても規律しており、そのようなベトナム人労働者に「関連する」契約を締結する事業活動についても、送出機関としての認可が必要な行為の一つとして規定している。そこでは、技能実習制度の枠内であるか否かは問題にされていない。ベトナムでは以前から海外で働くベトナム人労働者は珍しくなく、渡航先も、近年は日本が最も多いものの、それ以外にも台湾、韓国、サウジアラビアなどへも行っている。送出機関は、日本の技能実習制度のみを対象としたものではなく、他の国の制度にも適合させる必要上、このような包括的な表現になっていると思われる。
したがって、日本で高度人材や特定技能の資格で就職しようとするベトナム人労働者を日本企業に紹介するために日本企業と有料職業紹介の契約を締結する場合でも、送出機関としての認可が必要と解される。この際、ベトナム人労働者から費用を徴収するかどうかは問題にならない。よって、ベトナムに在住している人材の日本での職業の斡旋を適法に行うには、ベトナムの認可を受けた送出機関との協力が不可欠である。協力には様々な方法が考えられるため、当事者間のご意向を受けて検討、交渉を進めることになる。