◇SH2858◇ベトナム:M&A実務に大きな影響を与える通達06号の施行(下) 中川幹久(2019/10/30)

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ベトナム:M&A実務に大きな影響を与える通達06号の施行(下)

 

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 川 幹 久

 

 前回に続き、通達06号の概要について、実務上重要と思われる点に焦点を当てつつ説明する。

 

M&Aにおける譲渡代金の決済

 FDI企業の出資持分または株式が譲渡される場合の譲渡代金の決済については、以下のとおり規定されている。

  1. (a) 当該譲渡取引における両当事者が、ともにベトナム非居住者である場合、又は、ともにベトナム居住者である場合は、DICAを通じて決済はしない。
  2. (b) 当該譲渡取引における一方当事者がベトナム居住者であり、他方当事者がベトナム非居住者である場合は、DICAを通じて決済しなければならない。

 旧通達の下では、上記(a)(b)いずれの場合であっても、対象会社にDICAが開設されている場合にはDICAを通じた決済が実務上なされていたものと理解している。通達06号では、(a)に該当する場合(両当事者が非居住者の場合)には、かかる従前の実務運用が変更されることになるが、これに伴い、付随する他の手続きとの調整を要する場面が発生する可能性がある。例えば、当該譲渡取引の売主が非居住者である場合、譲渡益課税の申告・納税手続きは対象会社たるFDI企業が行うことになるところ、旧通達の下では、当該FDI企業のDICAを通じて譲渡代金を決済することになるため、DICAに一旦入金された譲渡代金の一部を用いて当該FDI企業が納税を行い、残額を売主に送金する形で資金決済を行うことができた。通達06号の下では、(a)に該当する場合(両当事者が非居住者の場合)は、DICAを通じて決済しないこととされている(条文の文言上、当事者がDICAを通じた支払いを任意に選択できるようには読めない)ため、譲渡当事者が納税相当額をいかなる形で当該FDI企業に支払うのかなど、検討を要するように思われる。

 

経過規定

 通達06号は本年9月6日に施行されているが、経過規定が置かれている。具体的には、以下の(a)及び(b)に該当する場合には、該当する企業及び外国投資家は、口座の新設や閉鎖を行わなければならないが、これらの手続きは、通達06号の施行日から12ヶ月以内に行うこととしている。また、かかる口座変更手続き中に利益配当や資金の支払を行う必要がある場合は従前の口座を使用することができることとされている。

  1. (a) 外国投資家が51%以上の定款資本を保有することとなる場合に、外国投資家が間接資本金口座(通称「IICA」。以下「IICA」という)を開設し、当該IICAを通じて資金決済を行っているときは、新たにDICAを開設しなければならない。
  2. (b) 以下に該当する企業がDICAを開設している場合は、DICAを閉鎖すると同時に、当該企業の定款資本を保有する非居住者たる外国投資家は、IICAを開設しなければならない。但し、当該企業がDICAを通じて外国ローンの借入・返済を行っている場合は、DICAを維持することができる。
    1. (i) ベトナム内国企業の出資持分・株式を外国投資家が取得したものの、外国投資家の定款資本の割合が51%未満の場合
    2. (ii)当該企業が、投資登録証を取得することを投資法上義務づけられている場合に該当しないにもかかわらず、任意に投資登録証を申請し、その発行を受けている場合
    3. (iii)証券取引所に上場されているFDI企業

 

まとめ

 ベトナム企業のM&Aにおける資金決済手続きについては、法令上の規定の内容の不明瞭さに起因して、実務上これまでも様々な形で混乱を生じてきた。通達06号はこうした混乱の原因となっていた規定自体の不明確さを一定程度明確にした部分はある。しかしながら、上述のとおりいまだ不明確な点は複数存在する。また、例えば、IICAの取扱いについて規定した通達05/2014/TT-NHNN号との整合性や、関係する企業法の規定との整合性など、関連する他の法令との関係が明確でない点も複数存在する。こうした中で、上述のとおり、通達06号では従来の運用を大きく変更する改正もなされていることから、今後しばらく不安定な運用が続くことが懸念される。こうした不明確な点に対する中央銀行の動向にも注視しつつ対応を検討する必要がある。

以上

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