◇SH3876◇インドネシア:オムニバス法の制定(17)〜不動産法制の主要なアップデート(1) 中村洸介(2022/01/13)

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インドネシア:オムニバス法の制定(17)
〜不動産法制の主要なアップデート(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 村 洸 介

 

 2020年11月2日に制定された雇用創出に関する法律(通称「オムニバス法」)は、インドネシアにおける投資促進及び雇用機会の創出を目的として、約80の法令を一度にまとめて改廃したものであるが、オムニバス法及びその関連規則によって、不動産法制に関してもアップデートが生じている。本稿では、その主要なものとして、①外国人によるアパートメント・ユニットの保有、及び②土地登記制度の電子化について概説する。

 

1. 外国人によるアパートメント・ユニットの保有

⑴ 不動産に関する主要な権利

 インドネシアにおける不動産に関する権利は、土地基本法(1960年法第5号)に定められており、同法に規定されている主要な権利としては以下のものがある。

 

  性質 保有可能主体 保持期間 譲渡、担保設定

所有権
Hak Milik

土地に対する最も強く完全な権利

インドネシア国民

無期限

建設権
Hak Guna Bangunan

土地上に建物を建設して所有する権利

インドネシア国民
インドネシア法人(内資・外資)

最長30年
最長20年延長可

使用権
Hak Pakai

特定の目的のため又は土地で採れる作物を収穫する権利

インドネシア国民
インドネシア法人(内資・外資)
インドネシアに居住する外国人、駐在員事務所のある外国企業

最長30年
最長20年延長可

 

 これらはいずれも土地に関する権利であり、インドネシアの不動産法制では、伝統的に土地上に存在する建物は土地の付属物であると考えられてきた。(もっとも、実務上は当事者間の合意だけで建物のみの売買や賃貸借も行われている。)

 

⑵ 外国人によるアパートメント・ユニットの保有

 従前の法令(政令2015年第103号)においては、滞在許可を有する外国人は、使用権に基づいて建設されたアパートメントについてのみ、そのユニットに係る区分所有権(ストラータ・タイトル)を取得することができるとされていた。これは、アパートメント・ユニットの区分所有権(ストラータ・タイトル)を取得すると、その敷地に係る権利の共有持分も取得することになるところ、上記の表のとおり、外国人が土地に対して保有できる権利は使用権のみであることに基づくと解される。

 オムニバス法によって、土地基本法は改正されず、土地の権利に関する上記の枠組みに変更は生じていない。しかし、オムニバス法及びその関連規則である政令2021年第18号(以下「本政令」という。)では、滞在許可を有する外国人は、使用権に基づくものに加えて、建設権に基づいて建設されたアパートメントのユニットについても区分所有権(ストラータ・タイトル)を保有することが認められるようになった。上記の枠組みとの整合性の問題を指摘する見解もあるものの、本政令によって、外国人が区分所有権(ストラータ・タイトル)を保有できるアパートメントの対象が拡大されたと言える。

 ただし、インドネシアに滞在許可を有しない外国人はアパートメント・ユニットを購入することができず、また、滞在許可を有する者であっても、投資や転売、賃貸を目的とした不動産保有は認められず、これらの点に関しては従前の規制から変更はない。また、本政令は、ユニットの最低価格やアパートメントの総戸数等に関する制限が課せられる旨規定しているところ、ユニットの最低価格については従前から土地・空間計画大臣令があり、例えば、ジャカルタ特別州の場合は30億ルピア(約2,358万円)、バンテン州の場合は20億ルピア(約1,572万円)となっているが、その他の具体的な制限はまだ定められていないようである。

(2)につづく

 


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(なかむら・こうすけ)

2011年早稲田大学大学院法務研究科修了。2012年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2019年Columbia Law School卒業(LL.M.)。

2012年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、M&A案件を中心に国内外の企業法務全般に従事。ジャカルタ・デスク勤務(2019年10月~2020年)を経て、現在はシンガポール・オフィスに所属し、インドネシアをはじめ東南アジアへの日本企業の事業進出や資本投資、その他現地での企業活動全般についてアドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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