◇SH2595◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(169)コンプライアンス経営のまとめ② 岩倉秀雄(2019/06/11)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(169)

―コンプライアンス経営のまとめ②―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、コンプライアンス経営のまとめとして、筆者の問題認識と組織文化の定義について述べた。

 一般に、不祥事を発生させる企業(企業グループ)では、利益第一主義、上に意見を言えない、縦割り等、組織文化に問題がある場合が多く、不祥事を契機に改革を実行したとしても、不祥事を再発させやすい。

 むしろ、不祥事発生組織は、リストラや子供へのいじめ等をきっかけに、組織に対する忠誠心の減退や経営層に対する反発が生まれやすく組織は不安定化しており、一時的に強制されたコンプライアンスプログラムに従ったとしても、時間が経過し社会の非難が収まると、無意識に慣れ親しんだもとの組織文化に回帰し、不祥事を再発させる可能性が高い。

 したがって、不祥事発生組織は、目に見えるルールや制度の改革は当然実施すべきだが、それだけでは不十分で、経営トップ層を中心に、迅速・徹底的にコンプライアンスを組織文化に浸透・定着させなければならない。

 シャインによれば、組織文化とは、「組織が生成・発展するにつれて形成され、組織メンバーに共有され、無意識のうちに機能して、組織の認識の仕方に影響を与える暗黙の仮定」であり、レベル1:目に見える構造と手順(組織図、規定、組織風土、慣習、技術と製品等)、レベル2:信奉される信条と価値観、標榜される正当な理由(目標、戦略、理念、行動規範、ウェイ等)、レベル3:底に流れる基本的前提認識(組織が成功するにつれて形成された当たり前の信念等)の3段階に区別されるが、特にレベル3が重要であるとする。

 今回は、組織文化の特性と革新の必要性についてまとめる。

 

【コンプライアンス経営のまとめ②:組織文化の機能と革新】

1. 組織文化の特性

  1. ⑴ 組織文化は過去の成功期間が長いほど、成功パターンが同質なほど強化・固定される。
  2.   強い組織文化は、環境変化が緩やかな場合には前例に基づく効率的な意思決定ができるので、環境適応の成功要因になるが、環境変化が激しい時(政治・経済・社会の急激な変化や不祥事による経営危機等)には、前例やこれまでの価値観に基づく決定が通用しないにもかかわらず、それに固執しやすいので、組織存続の阻害要因になる。(いわゆる「成功のパラドクス」)
     
  3. ⑵ 組織文化を形成・革新できるのは、組織のリーダー(経営トップ)だけである。
  4.   経営トップが最も強力なパワー(影響力)を持つので、組織内の反対を押し切り万難を排して実行できるのは、経営トップだけであり、経営トップが反対した場合には、誰も組織文化の革新をできない。
     
  5. ⑶ 組織文化が状況や戦略と適合・調和した時に、優れた成果を上げる。
  6.   組織の価値観を共有する成員が、やらされ感なく自らの価値観の延長で、組織状況を捉え効率的に戦略を実行できるからである。
     
  7. ⑷ 組織文化とイノベーションは必ずしもトレード・オフの関係ではなく、イノベーションを促進する組織文化もある。
  8.   組織文化に革新が組み込まれている場合(優良IT関連企業等)には、組織は、常に新たなテーマを発見し成長を続けるので、成功可能性が高い。
     
  9. ⑸ 組織文化は、マクロカルチャー(民族、国や地域のカルチャー)とサブカルチャー の影響を受ける。
  10.   組織活動のグローバル化や専門化が進むと、国や民族の文化の影響、組織内の機能別タスク、メンバーの職業、独自の経験等を反映した文化の影響を受ける。(例.生産と販売、研究職、技術者、開発等のほか、経営層、管理層、現場のライン間、医者、弁護士、会計士等)

 

2. 組織文化の革新

 組織は、一定の成長を遂げると、創業者支配からゼネラルマネージャーによる経営管理プロセスを通じた支配に移り、更に成熟期に移行する。

 組織が成熟期に入ると、リーダーは、成長した多用なサブカルチャーも含めた組織文化の管理が必要になり、高度に分化した組織を統合・展開する中で、機能しなくなった要素をどう置き換え、新たに環境適合的な文化的要素をいかに強化していくかが中心テーマになる。

 リーダーとリーダーに任命された革新チームは、これまでの組織文化の良さを維持しながら機能不全になった組織文化の革新を同時に進めなければならない。

 シャインは、文化変革のモデルを、以下の3段階に分けている。(E.H.シャイン『企業文化――生き残りの指針』[1]119頁 図表6・1 文化変容のモデルを岩倉が表化した)

  目 的 行 動
第一段階 解凍-変化の動機づけを行なう
  1. 1. 現状否認
  2. 2. 生き残りの不安・罪悪感を作り出す
  3. 3. 学習への不安を克服するための心理的安心感を作り出す
第二段階 古い概念にとって代わる新しい概念及び新たな意味の創出
  1. 1. 役割モデルの模倣及びモデルとの同一化
  2. 2. 解決法の探査及びモデルとの同一化
第三段階 新しい概念と意味の内面化
  1. 1. 自己の概念およびアイデンティティへの取り込み
  2. 2. 継続している関係への取り込み

第一段階・現状否認(前掲、シャイン118頁~132頁)

 人間には、学習し改善したいという本能が事前に備わっていないので、成功している組織が大きな変革を行なうためには、メンバーが変革をしようとする気になる何らかの脅威・失敗したという感覚、危機感、不満が必要である。

 変化が必要なら、何らかの新しい力で組織の均衡状態を揺さぶり変化を促す必要がある。

 現状否認の源泉としての不満足及び脅威として、①経済的脅威、②政治的脅威、③技術的脅威、④法的脅威、⑤倫理的脅威、⑥内面的苦痛等、がある。

 シャインは、「生き残りの不安が現れる最も強力なきっかけは、事故や不祥事の発生により、組織の標榜する理想や価値観の一部が実際には機能していない場合で、そのために、実際に働いている深層の価値観(=組織文化の第3段階、岩倉解釈)を再評価することになると述べている。

 また、合併・買収・ジョイントベンチャー等により2つ以上の文化が一緒になり協力しなければならない時に、文化革新の必要性に気が付くのは、組織が一緒になった後であると指摘している。(本稿で、日本ミルクコミュニティ(株)のケースを考察したのと一致する。)

つづく



[1] Edgar H.Schein ”The Corporate Culture Survival Guide”(金井壽宏監訳、尾川丈一=片山佳代子訳『企業文化――生き残りの指針』(白桃書房 2004年))

 

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