野村ホールディングス、「不適切な情報伝達」で金融庁に改善報告書を提出
――非公知の重要な情報の管理の厳格化など、特別調査チーム提言を踏まえ――
野村ホールディングス(本店:東京都中央区、東証第一部・名証第一部上場)は6月3日、金融庁が5月28日付で同社および野村證券に対して発出した業務改善命令に基づいて改善報告書を提出、受理されたと発表した。同社が5月23日付のニュースリリース「本日の一部報道について」により「東京証券取引所で議論されている上位市場の指定基準および退出基準に関する情報について、野村證券株式会社における情報伝達の過程で、市場の公正性・公平性確保の観点から不適切な情報の取扱いがあった」と明らかにした事案を巡るもので、翌24日には外部有識者で構成された「特別調査チームによる報告書(要旨)」を公表するとともに、報告書の提言を踏まえた改善策を発表していた。
同社の特別調査チームは大手法律事務所所属の弁護士5名からなり、同社監査委員会のもとに設置された。5月10日付の上記・報告書(要旨)によると、本年3月5日、東証が設置した「市場構造の在り方等に関する懇談会」の委員を務める野村総合研究所の研究員から野村證券のリサーチ部門に所属するチーフストラテジストに対し、「東証で議論されている市場区分の見直しについて、上位市場の指定基準及び退出基準が時価総額250億円以上とされる可能性が高くなっている」旨の情報が伝達されたという。そして当該情報は同日および翌6日、チーフストラテジストから野村證券および Nomura International (Hong Kong) Limited の日本株営業担当の社員等に伝達され、さらには情報を受領した一部の社員から顧客である一部の機関投資家に提供された。野村ホールディングスにおいては3月29日の取締役会で本件に関する報告がなされ、監査委員会は厳格な調査の実施が必要と判断、傘下に特別調査チームを設置して調査を実施することとしたとされる。当該情報の伝達の経過、本件の問題点、原因の分析については報告書(要旨)に詳しく、適宜参考とされたい。
金融庁においても同社への報告徴求に対する報告内容とともに特別調査チームの調査結果なども踏まえて検証した結果、業務改善命令を発出しており、野村證券に対して(1)情報管理に係る経営管理態勢が十分ではないと認められる状況、(2)過去の行政処分を踏まえた業務運営の改善が不十分な状況を認定。(1)においては、チーフストラテジストの情報伝達行為等について「本件行為は、法令等諸規則に違反する行為ではないものの、一部特定の顧客のみに市場構造に関する東証における検討状況に係る情報を提供して勧誘する行為であり、資本市場の公正性・公平性に対する信頼性を著しく損ないかねない行為である」とするとともに、(2)においては「本件行為は、いわゆる早耳情報を利用した営業行為であり、その発生原因がコンプライアンスの本質を理解していない点において、野村證券が行政処分を受けた平成24年の増資インサイダー事案と類似性が認められる」などと指摘している。
また、野村ホールディングスに対しては、同社取締役会が「情報管理態勢の見直しや社員の職業倫理の強化・徹底というグループ一体となって取り組むべき課題に対して、平成24年の増資インサイダー事案の教訓等も踏まえ、適切なグループ経営管理機能を発揮させるべきところ、その取組みが十分ではなかった」と認定した。
業務改善命令において「詳細な改善計画を策定のうえ提出すること」と対象とされた同社の再発防止策は同社が5月24日に発表した改善策と同様のものと考えられることから当該発表をみると、「Ⅰ. 金融機関として社会が期待する役割に応える『コンダクト』の考え方を浸透させ、自ら規律を維持・向上させる態勢の構築」「Ⅱ. 健全な資本市場の発展に資する動機づけを組み込んだホールセール部門のエクイティ・ビジネスにおける組織体制の見直し」「Ⅲ. 法人関係情報に加え、投資判断に重大な影響を及ぼし得る非公知の情報を厳格に管理する態勢の整備」の3大項目からなっている。
これらのうち「Ⅲ」において「6. 公的機関等から得た非公知の重要な情報の管理の厳格化と既存のルールの再徹底」「7. その他の社内外の有識者による情報発信の取扱い」「8. 調査・情報提供に係る業務委託契約の見直し」といった本件特有の課題に関する対処方針が示されており、上記「6」として①公的機関等から得た非公知の重要な情報の管理に関するルールの新設、②既存の「重要情報」を含めた情報管理のあり方の整理とルールの明確化、③リサーチ部門における「重要情報」の取扱いの再徹底の3点が、上記「7」として①外部委員を兼任する役職員に関する各部門におけるルールの明確化、②「社外有識者等」へのアプローチ方法に関する規律の整備の2点が掲げられた。