シンガポール:建設業界支払保全法(SOP法)の改正(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 青 木 大
建設業支払保全法(「SOP法」。2005年4月1日に施行。)の改正法が2018年10月2日、シンガポール議会を通過した(施行日は今後官報にて告示)。以下、その主要な改正点について解説を行う。
Ⅰ 適用対象の拡大・明確化
1. 法適用の国際的な範囲拡張(第4条関連)
SOP法は従来、シンガポール国内の建設工事についてのみ適用があるものとされていた。改正法は、以下のプレハブ業務についてもその適用対象を拡大する。
- (a) シンガポール国内を作業場所とする建設工事に用いられる資材のプレハブ業務であって、海外で行われるものに関する契約
- (b) シンガポール国外を作業場所とする建設工事に用いられる資材のプレハブ業務のうち、当該業務がシンガポール国内において行われる契約で、契約当事者全てがシンガポールの法人である場合
2. 終了した契約に基づく請求も可能であることを明確化(第4条関連)
改正法は、(帰責事由を問わず)終了した契約に基づく請求についても法の適用対象となることを明確化した。ただし、終了した契約が、一定の期日の経過又は事由の発生まで支払いを停止する旨の契約条項を含んでいた場合には、当該契約条項が優先され、当該契約条項を遵守しない請求が認められることにはならない。
3. 再度の支払請求の提出が可能であることを明確化(第10条関連)
改正法は、一旦支払請求(Payment Claim)を行ったがその後支払を受けられていない請求について、再度支払請求することができることを明確化した。一旦裁定手続を提起したものの、何らかの理由で裁定手続が取り下げられた請求についても再請求が可能である。
4. 最終支払についての請求が可能であることを明確化(第2条関連)
改正法においては、中間支払だけでなく、最終支払(final payment claim)についても請求対象となることが明確化された。
Ⅱ 時効・遅延利息
1. 支払請求に係る時効(第10条関連)- 6年から2年半に
SOP法は、建設業務が提供された後6年以内に支払請求を提出すべきことを定めていた。これはシンガポール時効法と整合するものだが、この期間が長すぎるとの批判が出ていた。そこで改正法は、Payment Claimの提出期限を、①業務の終了時、②業務の終了を示す書面の最終発行日、又は③最終の仮使用許可証(temporary occupation permit)の発行日のうち、最も遅い日から30ヵ月(2年半)に短縮した。
2. 遅延利息の下限設定((第8条関連)
改正法は、progress paymentにかかる遅延損害金料率を法定利息(現状年率5.33%)以上とすることとした。従前は契約で自由に遅延損害金料率を定めることができたが、極端に低い遅延損害金が定められることを防ぎ、もって支払い遅延を抑止することを目的とする改正である。
(2)に続く