◇SH2602◇シンガポール:建設業界支払保全法(SOP法)の改正(2) 青木 大(2019/06/13)

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シンガポール:建設業界支払保全法(SOP法)の改正(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

 

 前回に引き続き、2018年10月2日にシンガポール議会を通過した建設業支払保全法(「SOP法」)改正法の主要点について解説を行う。

 

Ⅲ 支払請求~裁定手続に関する改正

1. 支払請求の提出時期(第5条関連)

 現行法上、契約の定めに従わないタイミングで提出された支払請求は無効となるが、改正法は、契約に定める日より前に提出された支払請求もなお有効なものとする。その支払請求は契約に定める日において提出されたものとみなされる。申立人の不注意により事前に出された支払請求が無効となるような事態を防ぐ趣旨の改正である。

 

2. 支払請求に対する回答(Payment Response)の期限の延長 – 7日から14日に(第11条関連)

 Payment Responseの期限が契約に定められていない場合、改正法はこれを支払請求の受領日から14日間と定める(従前の7日間から延長)。

 

3. 書面の提出方法 – 電子メールによることも可能であることが明確化(第37条関連)

 改正法においては、電子メールによる書面の交付が有効な送達となることを明確化した。ただし、電子メールによる場合はあくまで相手方によって受領できた時点で有効な交付となる。

 

4. 軽微な瑕疵を含む裁定申立書の取扱(第13条関連)

 従前は、法の定める要件を満たさない裁定申立書は、その瑕疵の重大性を問わず却下される規定振りとなっていたが、改正法においては、被申立人の権利を重大に害するものでない限りは、裁定人がこれを有効なものとして扱うことができる裁量を有することが明記された。

 

5. 支払請求に対する回答に含まれていなかった反論の取扱(第15条関連)

 支払請求に対する回答に含まれていなかった被申立人の反論については、裁定手続において主張されたとしても、裁定人はこれを考慮することはできないが、裁判所における裁定判断取消訴訟においてそのような新たな反論を裁判所が考慮できるかどうかについては、従前は明示の規定がおかれていなかった。改正法は、裁判手続においても新たな反論は裁判所の考慮の対象とはならないことを明記した。ただし、①新しい状況が生じた場合、②それ以前には理由を認識しておらず、異議を唱えることができなかった場合、③明確な瑕疵(patent error)に関する異議については、追加的な主張を行うことができる。

 

6. 複雑な請求・相殺等の主張の制限(第17条関連)

 改正法は、申立人・被申立人双方について、①両当事者間で算定方法が合意されていることを書面で証明することができる場合、又は②契約上発行することが要求されている証明書その他の書面によって証明することができる場合を除き、裁定手続における請求又は反対請求を行うことができないこととした。複雑なprolongation costやback chargeなどの主張により裁定手続が長期化することを防ぐ目的の改正である。

 

7. 申立人も上訴裁定請求が可能に(第18条関連)

 従来被申立人によってのみ可能だった上訴裁定(Adjudication Review)の請求が、改正法においては申立人が行うことも可能となった。これを受け、敗訴裁定を受けた被申立人は、裁定額について、①申立人から上訴裁定の申立がなされない場合、裁定判断7日後から10日の間、又は②申立人が上訴裁定申立を行った場合は、上訴裁定判断がなされてから7日以内に支払わなければならないこととなる(第22条関連)。

 

8. 上訴裁定前の支払対象を指定機関に(第18条関連)

 従前、SOP法は、被申立人が上訴裁定を申し立てる場合、申立人への直接の裁定額の支払いを要件として定めていたが、かかる支払は申立人に対してではなく、指定機関(シンガポール調停センター、SMC)に対して行うこととされた。裁定判断が覆された場合に被申立人による取戻しを容易にするための改正である。

 

9. 裁定判断取消事由の明示(第27条関連)

 改正法は、これまでの裁判例等に基づき、裁定判断の非排他的な取消事由を以下の通り明記することとした。

  1. (a) 法の規定に従って支払請求が送付されなかった場合
  2. (b) 法が認める場合以外に一の支払に関して複数の支払請求を送付した場合
  3. (c) 既に裁定手続において実体判断がなされた事項に関する支払請求
  4. (d) 法の規定に従わない裁定申立又は上訴裁定申立
  5. (e) 裁定人が裁定判断の作成に当たり法の規定に従わなかった場合
  6. (f) 申立人から被申立人に対する支払を命じる裁定判断
  7. (g) 裁定判断の作成に関連して生じた自然的正義違反
  8. (h) 裁定判断の作成が詐欺又は賄賂により促され又は影響を受けた場合

 

Ⅳ まとめ

 以上の通り、今回の改正は、請負者のキャッシュフローの保全という法目的を維持しつつ、現行法上必ずしも明確ではなかった事項や実務上問題となった事項についての明確化が図られ、ユーザーにとってより使い勝手のよい制度を目指すものといえる。根本的な制度変更はないものの、時効や遅延利息等、重要な実質的改正も含まれている点には留意が必要である。

以 上

 

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