◇SH2635◇ユーシン、タイ子会社の経理処理を巡り再発防止策を発表 (2019/06/28)

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ユーシン、タイ子会社の経理処理を巡り再発防止策を発表

――担当者の誤解から生じた事案、指導後も改善状況のフォロー行われず――

 

 自動車・産業機械用各種システム機器等の製造・販売を主軸とし、国外にも多数の生産・営業拠点を擁するユーシン(本社:東京都港区、東証第一部上場)は6月17日、タイ王国所在の連結子会社である U-SHIN (THAILAND) CO.,LTD.(以下「ユーシンタイ」という)における経理処理を巡り、社外有識者を主要メンバーとする調査委員会から調査報告書を受領したとしてその「要約版」を公表するとともに再発防止策を発表した。

 ユーシンでは4月26日、ユーシンタイに関して2019年12月期第1四半期末の実地棚卸の際の社内調査により「2012年11月期以降において棚卸資産が過大となり売上原価が過小となっている可能性があることが判明」したと発表。併せて、調査委員会を設置して調査すること、当該調査および会計監査人による追加的監査手続等に時間を要することから第1四半期決算短信の開示を延期することを明らかにしていた。

 調査委員会は大手法律事務所所属弁護士を委員長、複数の他社の事案で第三者委員を務めてきた公認会計士、同社社外取締役監査等委員である公認会計士・税理士を委員とする計3人で構成。本件に関する事実関係(類似事象の存否を含む)の調査、本件による影響額の確定、本件が生じた要因の究明と再発防止策の提言を調査目的とし、6月17日公表の「調査報告書(要約版)」によれば、関係資料の精査、ヒアリング、現地調査等が行われたという。

 調査結果によると、(a)ユーシンタイが毎月作成する損益計算書とユーシンが毎月各子会社から提出を受ける月次報告書とでは作成前提が異なっていたことから、ユーシンタイの経理担当者A氏はこれにより生じた齟齬を解消するため、2012年5月以前においては月次報告書上の科目「仕掛品・製品の在庫増減」に生じた齟齬と同額を計上することにより双方の損益を一致させる処理を行っていたところ(以下、計上金額を「調整額」という)、(b)2012年3月ころにユーシンからA氏に対して行われた経理処理の指導を契機とし、2012年6月以降、A氏は月次報告書の作成に際して調整額を「仕掛品・製品の在庫増減」には計上せずに会計システム上で仕掛品として計上するように変更した結果、(c)ユーシンタイでは2012年11月期以降、仕掛品に係る棚卸資産の過大計上および売上原価の過小計上が生じた。仕掛品に計上された調整額については、翌四半期以降の実地棚卸の結果を会計システムに反映する際にも製造原価として費用処理されることなく、そのまま仕掛品残高として積み上がり続け、また、調整額が仕掛品に計上された結果、原価差額の配賦計算上、調整額も加味した仕掛品数値が用いられることになったという。

 調査報告書では、この経理処理を「A氏が当社(編注・ユーシン)からの指導を誤って理解した結果であり、A氏において、不当又は違法な利益を得る等のために、他者を欺く意図があったとは認められない」「A氏の誤解から生じた誤謬であって、不正であったとは認められない」と結論付けた。その背景には(ア)2012年当時の関係者の関与・認識として「ユーシンタイの経理処理についての指導責任者が誰であるかが曖昧なまま指導が行われた結果、A氏の誤解を招いてしまった」こと、「2012年度以降のユーシンタイの拠点責任者はいずれも、経理実務はA氏に任せていたと述べており、A氏の経理処理の内容を把握していなかったと認められる」こと、(イ)ユーシンにおけるユーシンタイの管理状況として「経営企画部は、各拠点の損益計算書の営業利益を中心に確認しており、その他の項目については異常値を確認する程度であった」こと、「経理部は、在庫に関する数値は特に意識していなかった」こと、「内部監査室もユーシンタイに関しては、業務プロセスまで確認・検証するなどの監査までは行っていなかった」こと(2018年度の内部監査で問題点が確認され、さらなる調査を行うことを予定していたなかで本件が発覚したとされる)が挙げられている。また、ユーシンタイにおいて本件以外の不適切行為の存在を窺わせる事情は見受けられず、ユーシンタイ以外の生産拠点である海外の連結子会社および国内の生産拠点ならびに産業機械部門に対して棚卸資産に関する報告を求めたが不適切な経理処理につながる事象は認められなかったという。

 原因として掲げられたのは(1)上述のようなユーシンタイの経理処理に対する確認体制の不十分さとともに、(2)同社と子会社間の連携体制の不十分さ、(3)子会社の会計数値の適切性に関する管理意識の乏しさ、(4)同社におけるリスク管理意識の乏しさ。たとえば、(2)はまず「システム面の連携の不十分さ」について「システム上自動的に数字が取り込まれ、必要な原価計算がなされる仕組みとなっていればA氏による調整・操作が介在する余地がなく、本件を未然に防げた」と指摘しつつ、「コミュニケーション上の連携の不十分さ」として「指導内容と理解との間に齟齬が生じた原因としては、タイ人のA氏と、日本人との間で、英語による連携が不十分であったことがあげられる」としている。

 調査報告書はこのような原因分析を通じ、6点の再発防止策を提示。ユーシンはこの提言を踏まえ、①経理的知識・言語能力を考慮した適切な人材配分の見直しによるチェック体制の構築、②子会社管理の役割分担や権限(責任)の明確化および各部門責任者の意識・能力の向上のための教育、③会計システムの連携体制の見直し、④経営企画本部、経理財務本部、内部監査室等の連携強化ーーの4点に取りまとめた再発防止策を発表し、これらを通じてガバナンス体制および内部統制の整備・運用を図っていくと表明した。

 本件経理処理に絡んでは調査報告書・再発防止策の発表と同日となる6月17日、同社から(ⅰ)過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出、過年度決算短信等の訂正、(ⅱ)内部統制報告書の訂正報告書の提出に係る各リリースが発表されており、また、開示が遅れていた(ⅲ)第1四半期決算短信についても公表。なお、上記(ⅰ)の発表によると、ハンガリー所在の連結子会社である U-SHIN EUROPE LTD. に関して2018年12月期における売上原価の修正など必要な訂正を行ったことを明らかにし、その原因について「2018年12月期に現地会計システムを更新した際にトラブルが生じたこと、手動での仕訳処理に誤りが生じたことにより、修正が必要となった」と説明している。

 

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