◇SH2646◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第44回) 齋藤憲道(2019/07/04)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

3.販売(役務提供を含む)、流通、クレーム・製品事故対応

 販売、流通、クレーム・製品事故に関する主な管理項目を次に示す。

(1) 受注・生産手配・在庫管理、出荷(売上計上)を行い、記録する

  1. ・ 工場に対して、生産指示(要請)する。
  2.   完成品在庫を増やせば、売り損じ(品切れ)を防ぐことができる。しかし、在庫の分だけ資金を余分に必要とするので、統計学を駆使して適正な在庫水準(即ち、発注点)を決める。

(2) 消費者(又は取引先)の立場に立って、商品を説明する

① 電子商取引は、取引の相手方の立場を考え、適切な仕組みを作って行う。

 電子商取引はインターネット等のコンピュータ・ネットワークを介して、企業間(B to B)、企業-消費者間(B to C)、消費者間(C to C)[1]等で行われ、近年、その規模が拡大している。

 電子商取引においては、誰もが時間・場所の制限なく参加でき、簡易な方法で契約の誘引、成立(締結)、履行(引渡し、決済等)が行われる。

 しかし、技術革新に伴って新たな取引形態が次々に生まれることから、取引の当事者間のトラブルが絶えない。この分野の市場の急速な変化に法制度の整備が追い付かないため、取引に係るトラブルの解決とその未然防止を目指して、関係者の間で、法令制定に先行して様々なルール作りが進められている。

 企業は、新しい規範に留意して、トラブルが生じないビジネスモデルを構築したい。

 次に、公的機関が関与して作成したルールを例示する。

  1. ○「電子商取引及び情報財取引等に関する準則[2]」平成30年7月 経済産業省[3]
  2.    この準則は2002年(平成14年)に、電子商取引・情報財取引等に係る市場の予見可能性を高めることを目的として経済産業省から公表されたもので、電子商取引に特有の取引等に関する既存の法律等[4]の適用の考え方(適用の限界を含む)が示されている。この準則は、その後、市場の取引実務、技術の動向、国際ルールの整備状況等に応じて、毎年のように改訂されている。
     
  3. ○「国連 消費者保護に関するガイドライン(2015年改訂版)」
  4.    第14項では「加盟国は、以下の事項を奨励する消費者保護政策を構築すべき。」として、「e 取引における確認、取消し、返品、返金の透明なプロセス」及び「f 安全な支払の仕組み」を挙げている。
     第44項では「消費者教育及び情報プログラムには、次の消費者保護の重要な側面を含めるべき。」として「g 電子商取引」を挙げている。
     
  5. ○ TPP11協定[5] 第14章「電子商取引章」
  6.    TPP11の加盟国は、電子商取引利用者の個人情報の保護、オンライン消費者の保護に関する規律を定める等、消費者が電子商取引を安心して利用できる環境を整備する[6]

② 商品の特徴・使用条件・使用上のリスク等を、商品本体・取扱説明書等に表示する。

  1. ・ 顧客に適切に伝達する基準を定めて、表示する。
  2.   商品・取扱説明書への表示、広告宣伝、説明方法(口頭・文書・HP・電子メール等)

③ 顧客への説明基準(マニュアル等)を定め、実行して、その記録(適合性原則を含む)を残す。

  1. 1) 販売員・運送担当者・メンテナンス担当者等を教育する。
  2.   適切な販促ツールを作成する。(カタログ、説明書等)
  3. (注1) 販促ツールは、適合性の原則(消費者の知識・経験・財産等を勘案して勧誘する)に従って作る必要がある。
  4. (注2) 住宅建設工事の請負人が示す「住宅性能評価書」は、契約の一部と見なされる[7]
  5.  顧客から「理解した」旨の確認サインを取得することもある。
     
  6. 2) 法令・契約が定める基本ルールを守って取引する。
  7. (ⅰ) 消費者保護のための取引規制を遵守する(B to C ビジネスの場合)
  8.    取引被害を防ぐために、売手と買手の間で適切な合意が形成される環境・市場を確保するさまざまな法制度が設けられている。企業には、法令・業界のルール等に形式的に従って勧誘・説明・表示等するだけでなく、顧客の年齢・知識等の特性に個別・具体的に配慮することが求められる。
     このため、企業では営業社員を対象にして行動基準や業務マニュアルの研修を行っている。
  9. 〔消費者契約法・金融商品取引法の規制〕
  10. 例1 事業者と消費者の間には情報の質と量、交渉力の面で格差があるとして消費者を保護する消費者契約法が2000年に制定された。不適切な勧誘行為による契約は取り消され(4条~7条)、不当な契約条項は無効になる(8条~10条)。
  11. 例2 金融商品取引法は「適合性の原則」を定め、顧客の知識・経験・財産の状況及び取引の目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けてはならないとしている(40条)。企業には、金融商品の販売に際し、顧客に対して商品に内在するリスクを適切に説明する義務(説明義務)がある(3条)。
     
  12. (ⅱ) 暫定的な例外取引は、速やかに本来の姿に戻す(B to Bビジネスの場合)
  13.   納入先が取引契約の特別採用(通称「特採」)条項を適用した場合は、その顛末(暫定対策を含む)を記録し、恒久対策の実施に取り組む。
    (納入者側から、「特採条項の適用を終了して頂きたい。今後の改善策は、次の通り。」と、申し出たい。)


[1] インターネットオークション、中古品売買等

[2] 〔目次の大項目〕Ⅰ章 電子商取引に関する論点、Ⅱ章 インターネット上の情報の掲示・利用等に関する論点、Ⅲ章 情報財の取引等に関する論点、Ⅳ章 国境を超えた取引等に関する論点(国際裁判管轄及び適用される法規に関して)

[3] 消費者団体、事業者団体、総務省、法務省、消費者庁、文化庁等が参画して作成。

[4] 既存の法律等の例:民法、商法、景品表示法、個人情報保護法、資金決済法、電子契約法、特定商取引法、特定電子メール法、特許法、商標法、著作権法、不正競争防止法、独占禁止法、刑法、不正アクセス禁止法、プロバイダ責任制限法、預金者保護法、破産法、民事訴訟法、法の適用に関する通則法、ウィーン売買条約、仲裁法、ニューヨーク条約

[5] 2018年3月にサンティアゴ(チリ)で、日本を含む11ヵ国の閣僚がTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)に署名し、同年10月31日に日本を含む6ヵ国が国内手続を完了して協定の寄託国(ニュージーランド)に通報して、2018年12月30日に発効した。これにより、人口5億人・GDP10兆ドル・貿易総額5兆ドルの巨大な「一つの経済圏」が形成された。

[6] TPP11協定第14章は、この他にTPP11加盟国によるコンピュータ・プログラム等の無差別待遇、国境を超える情報移転の自由の確保、サーバ等のコンピュータ関連設備の現地化要求の禁止等を規定し、電子商取引を阻害する過剰規制を導入しない旨を定めている。

[7] 住宅の品質確保の促進等に関する法律(略称、住宅品質確保法、又は、品確法)6条1項~3項、同法施行規則3条

 

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