◇SH3288◇ベトナム:企業法の改正② 井上皓子(2020/09/01)

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ベトナム:企業法の改正②

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

 2015年7月1日に施行した現行企業法(以下「2015年企業法」)の改正法は、本年6月に国会で可決され、公布された(以下「改正企業法」)。2020年中は2015年企業法が、2021年1月1日以降は改正企業法が適用される。

 ①に引き続き、実務上特に注目される点を解説する。

(3) 有限責任会社(LLC)における変更点

 有限責任会社には、社員が一人の有限責任会社(SLLC)と、複数名の二人以上有限責任会社(MLLC)があり、日本企業が子会社を設立する場合に多く利用される会社形態である。LLCについての改正点のうち、以下の点は実務上特に重要と思われる。

  1.   監査役・監査委員会の任意化
  2.   2015年企業法においては、SLLCにおいては監査役が必須機関であり、MLLCにおいては社員が11名以上の場合には監査委員会が必須機関であった。しかし、改正企業法においては、いずれにおいても、国営企業又は国営企業の子会社を除き、監査役又は監査委員会の設置は任意とされた。
     
  3.   MLLCにおける社員総会議事録の署名
  4.   MLLCは、その最高意思決定機関として、社員の委任代表者によって構成される社員総会の設置が必須とされる。社員総会は少なくとも年1回の開催が義務付けられており、議事録を作成し、議事録作成者及び議長の署名を付したうえで承認される必要があるとされている。
  5.   2015年企業法では、署名が拒否された場合の有効性について明確ではなかった。この点、改正企業法においては、議事録作成者又は議長が署名を拒否した場合であっても、①社員総会に出席する他の全ての社員が当該議事録に署名し、かつ②当該議事録が法定記載事項を含む場合には、議事録は有効と認められることが明確にされた。これにより、議長が単に署名を拒否したことにより、社員総会の成立に瑕疵があるとして争われるリスクが軽減された。なお、この場合、議長又は議事録作成者が署名を拒否したことを議事録に明記する必要がある。
     
  6.   法的代表者のタイトルの明確化
  7.   会社を代表する法的代表者の人数、権限、任務等は定款で定めることになるが、そのタイトルについて2015年企業法には規定がなかった。改正法においては、法的代表者は、社員総会の会長、会社の会長、総社長又は社長のいずれかとすることが明確化された。

(4) 株式会社(JSC)における変更点

 株式会社にかかる主要な変更点は以下のとおりである。

  1.   監査委員会会長の要件緩和
  2.   監査委員会の会長の要件について、2015年企業法では、会計士又は監査人(財務省から監査人証明書を付与された者)に限定されていたが、改正企業法では、経済・財務・会計・監査・法・経営管理又は企業の経営活動に関連する専門分野で大学卒業証明書以上を付与された者とされ、必ずしも会計士等の資格を有する必要はなくなった。株式会社形態のベトナムの会社を買収する際には、これらの要件を満たした監査委員会会長の人選に苦慮することがあったが、要件が緩和されたことにより、人選が容易になるものと思われる。
     
  3.   株主総会の権限、定足数の変更
  4.   株主総会の定足数は、2015年企業法では議決権を有する株式の51%とされていたが、改正企業法では50%超に変更された。
  5.   また、株主総会の権限として、①取締役及び監査委員会の予算、報酬、手当等の総額の決定、②内部統制規則等の承認、③独立監査人の決定・解任等が新たに規定された。さらに、優先株主の権利義務の変更について、2015年企業法には明確な規定がなかったが、改正企業法においては、優先株主の有する権利義務を不利に変更する場合には、株主総会において同種の優先株主の総数の75%以上の出席株主の賛成が必要とされた。
     
  6.   少数株主の株主権の拡大・強化
  7.   以下の3点において、少数株主権の権利の拡大・強化が図られている。
    1. ① 株主総会の招集権について、2015年企業法では普通株式の10%以上を保有し、かつ6か月以上継続して株式を保有している株主に限定していたが、改正企業法においては、5%以上保有している者とされ、6か月以上の継続保有要件は削除された。
    2. ② 法令や定款に違反し会社に損害を与える株主総会の決議の停止・取消しの訴訟を提起する権利は、2015年企業法では少なくとも1年間株式を保有する株主にのみ認められていたが、改正企業法では、株式の保有期間にかかわらず、全ての株主に対し認められることになった。
    3. ③ 会長、社長及び取締役に対し、会社を代表して損害賠償訴訟を提起する権利は、2015年企業法では少なくとも6か月連続して普通株式の1%以上を所有する株主にのみ認められていたが、改正企業法では、株式の保有期間にかかわらず、普通株式の1%以上を保有している株主に対し認められることになった。
       
  8.   議決権のない預託証券(NVDR)の導入
  9.   株式会社において、議決権を除き、普通株式に対して付与される権利を有するNVDRが新たに導入されることになった。詳細については別途ガイドラインで定められる。

(5) 概 括

 全体的には、かなり細かい修正が多いものの、監査役の任意化やERC手続きのオンライン化等をはじめとして、日本から投資・経営を行うにあたり制度の使い勝手がよくなったものが多いように思われ、概ね好意的に評価できる改正となっているように思われる。

 

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