◇SH2741◇インドネシア:贈収賄規制違反により法人が処罰された初の事例(2) 福井信雄(2019/08/28)

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インドネシア:贈収賄規制違反により法人が処罰された初の事例(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

 

3. 法人の刑事責任に関する最高裁規則の制定

 法文上は法人も処罰の対象となり得るにもかかわらず、実務的には刑事責任を問われることはないという長年の実務が変更されるきっかけとなったのが、2016年12月末に施行された法人の刑事責任に関する最高裁規則(2016年第13号)である。同規則では、法人が刑事責任を負うか否かの判断基準として、以下の要素を裁判官が考慮しなければならない旨規定している。

  1. ① 当該法人が当該犯罪行為によって直接利益を受けているか、又は当該犯罪行為は当該法人の利益を促進するために行われたものであるか。
  2. ② 当該法人は当該犯罪行為が行われることを認識していたか。
  3. ③ 当該法人は、当該犯罪行為の抑止や当該犯罪行為の効果の低減のための措置を講じたか。

 また、同規則では、法人が起訴される場合、取締役が法人を代表して刑事手続を遂行すること、法人といずれかの取締役が同一の犯罪について刑事手続の対象となる場合には、当該取締役が単独で又は他の取締役と共同で法人を代表して刑事手続を遂行することが義務付けられている。刑罰については罰金刑が原則で、付加的に関連法令に基づいた証拠の没収、被害弁償等又は裁判所の命令によるその他の懲罰的処分を課すことができる旨が定められた。

 

4. 2019年1月下級審判決

 上記最高裁規則の施行を受けて、汚職撲滅法違反で初めて法人の刑事責任が問われたのは、政府による建設工事プロジェクトの入札に伴う贈収賄事案であった。具体的には、PT Nusa Konstruksi Enjiniringというインドネシアの建設土木会社の取締役が、バリの公立病院の建設プロジェクトに関連して実施された政府入札手続で公務員に対して賄賂を支払ったという事案である。審理の結果、贈賄を行った取締役に対しては4年8ヶ月の禁錮及び2.5億ルピアの罰金が、収賄を行った公務員に対しては3年の禁錮及び5000万ルピアの罰金がそれぞれ科された。同判決に基づき、汚職撲滅委員会はさらに追加捜査を実施し、法人の刑事責任も問うべく追起訴を行った。既に同法人の取締役が全面的に自供していたこともあり、同法人も起訴事実を認めた結果、裁判所は2019年1月、同法人に対して7億ルピアの罰金刑を科したのに加えて、付随的な制裁として、①854.9億ルピアの損害補償と②6ヶ月間の入札への参加禁止の処分を課した。

 

5. 評価

 本件事案を通して、インドネシアの裁判所は上述の2016年最高裁規則に従って、過去の実務上の運用を変更し法人に対する刑事責任を問う姿勢を明確に示したものと評価できる。かつては、インドネシアにおける贈収賄違反のリスクは、初犯でも執行猶予が付かずに禁錮刑が科されるというもっぱら個人が負うリスクが強調されていたが、今後は法人自体も刑事責任を問われる可能性が高くなった点に留意する必要がある。米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)や英国の贈収賄法(Bribery Act)の域外適用条項に基づき、インドネシアでの贈収賄事案であってもグループ会社に多額の罰金刑が科される可能性やレピュテーションの毀損に繋がる可能性など、贈収賄規制違反のリスクはもとより小さいものではないが、今後インドネシアでの事情活動においてはより一層の贈収賄規制の遵守が求められると言える。

以上

 

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