インドネシア:企業結合届出に関する新規則(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
1.総論
インドネシアでは独占禁止法の改正作業が数年前から進められているものの、未だ改正法の成立には至っていない。改正法案では、リニエンシー制度の導入や企業結合の事後届出から事前届出への変更など、実務に大きな影響を与える改正が含まれており、関係者のコンセンサスを経て国会で可決されるまでにはもう暫く時間を要しそうな状況である。
そのような状況下で、インドネシアの競争当局である事業競争監視委員会(Komisi Pengawas Persaingan Usaha(略称KPPU))は、2019年10月3日、企業結合届出に関する新たな規則(2019年KPPU規則第3号)(以下、「KPPU新規則」という。)を制定、即日施行した。KPPU新規則では企業結合届出に関して幾つかの重要な改正がなされているところ、本稿ではその中でも実務上特に留意すべき事項として、①資産(事業)譲渡が新たに企業結合届出の対象となったこと、及び②企業結合届出の遅滞に対する制裁が強化されたことの2点を採り上げて概説する。
2.企業結合届出の対象の拡大
インドネシアの独占禁止法上、企業結合届出の対象になる組織再編行為は、①合併(吸収合併・新設合併)及び②(支配権の移転を伴う)株式取得の2つに限定されている。そして、かかる組織再編行為の結果、(ア)存続会社(吸収合併の場合)若しくは(イ)新設会社(新設合併の場合)又は(ウ)株式取得会社及び対象会社(株式取得の場合)のインドネシア国内の総資産額が2兆5000億ルピア(約200億円)を超えるとき又はインドネシアの国内の売上額が5兆ルピア(約400億円)を超えるときに、取引完了日から30営業日以内にKPPUに対して届出を行うことが義務づけられている。
KPPU新規則では、かかる企業結合届出の対象に、新たに資産(事業)譲渡が追加された。そもそも独占禁止法の下位規則に位置付けられるKPPU新規則において、法律レベルで定められている企業結合届出の対象取引の範囲を実質的に変更することが許容されるのかという点については疑問が残るものの、後述するように届出を怠った場合の制裁が厳格化される動きがあることも勘案すれば、実務上はKPPU新規則を遵守した対応をとるのが安全と言えよう。具体的に届出の対象となる資産(事業)譲渡は上述の合併や株式取得に適用される要件と同一であり、資産(事業)譲渡が行われた結果、資産譲受会社のインドネシア国内の総資産額が2兆5000億ルピアを超える場合又はインドネシアの国内の売上額が5兆ルピアを超える場合とされている。対象となるのは資産(事業)譲渡が行われた結果、譲受会社の関連市場に対する支配力が拡大するものという限定が付されていることから、単体の資産を譲渡する取引が届出の対象になることは考えにくく、主に競合する事業を買収することにより市場支配力が増すような事案が対象になるものと予想されるが、前例のない現状においてはKPPUへの事前相談制度を利用して確認を取りながら取引を進めることが望ましい。
つづく