◇SH2747◇中国における司法のIT化 第1回「インターネット裁判所(1)」 川合正倫(2019/08/30)

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中国における司法のIT化

第1回 インターネット裁判所(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

 「訴状の提出、証拠調べ、判決に至るまですべてがインターネット上で完結するインターネット裁判所」、「顔認証による当事者の確認」、「音声認証による電子調書の自動作成」、「5G技術を利用したオンライン開廷」、「AIが起案する裁判決定書」、「携帯電話のアプリを利用した倒産手続における債権者会議」、「ネットオークションサイトを利用した司法競売」

 これらは近未来の司法の姿ではなく、既に中国で実用化され成果をあげている司法制度である。

 中国のインターネット利用者数は8.29億人(2018年12月時点)にのぼり、全世界のインターネットユーザーの約2割を占める。中国のインターネット普及率は年々上昇しており、2018年は前年度より5,653万人を増加した。オンラインペイメントが当たり前の姿になり、いまや現金を利用する機会はほとんどなくなっている。インターネットの急速な普及の背景には中国の政府主導に基づく国家情報化発展戦略がある。中国の国家情報化発展戦略は1990年代から提唱され、2000年代に入り国の最も重要な国家戦略の一つになった。2006年に「2006-2020年国家情報化発展戦略」が発表され、10年の節目である2016年に新たに「国家情報化発展戦略綱要」が公表された。当該綱要は2016年以降10年間の中国情報化発展方針を示すものであり、インターネット技術の更なる発展、各産業におけるIT技術の活用等の目標を掲げている。また、同年年末に中国国務院が「『十三五』[1]国家情報化計画」を公表し、同計画では「知能裁判所」の建設、電子訴訟の推進、司法情報化の建設が明記された。さらに、翌2017年7月に中国司法部は「『十三五』全国司法行政情報化発展計画」を発表し、これまでの司法情報化の成果を総括し、2020年までの詳細な目標を設定した。

 国家レベルでのIT化の遅れ、各地方の発展状況の不均衡、一部地域のネットワーク建設の未完成、法律とIT双方に精通した人材の不足といった様々な問題にも直面しているものの、中国司法のIT化は急激に発展し、日本を含む他国を凌駕しているといえる。

 本シリーズでは、中国における司法IT化に焦点をあて、中国の代表的な実務成果を紹介する。第一弾として、インターネット関連紛争を専門的に取り扱う中国の「インターネット裁判所」を取り上げる。

 なお、本シリーズは長島・大野・常松法律事務所の王雨薇中国弁護士と共同で執筆している。

 

1 インターネット裁判所誕生の背景

 中国では、IT技術の急速な発展と普及により、インターネットは生活のあらゆる面に浸透しており、とりわけ、ネット通販はもはや生活に欠かせない一部になっている。特に若者の間では家電、家具から食品や文房具に至るまで様々な製品をタオバオ等のECプラットフォームで購入することが日常になっており、消費スタイルに著しい変化がみられる。

 中国のオンライン小売市場の規模も年々拡大しており、中国商務部によると、2018年の全国オンライン小売の売上額は9兆元(約141兆円)を越えた。中国ECプラットフォームの代表ともいえるアリババグループ(Taobao、Tmall等を含む)が2009年から毎年11月11日に開催する「独身の日」セールイベントでは、2018年当日の一日の売上額が2,135億人民元(約3.4兆円)に達した。

 インターネットの普及に伴い、その利用をめぐる紛争件数も爆発的に増加している。アリババの本拠地である浙江省杭州市では、2013年のEC関連の提訴件数約600件であったが、2016年には1万件超まで急増した[2]。紛争件数の急増に加えて、インターネット関連の紛争は、当事者の地理的分布が広範であること、少額訴訟が多いこと、多くの証拠が電子データであることといった特徴があり、通常の訴訟制度で対応する場合、裁判所の人員や時間の浪費、未処理案件の増加、遠隔地に所在する等の事情に起因する訴訟当事者の負担、訴訟期間の長期化等の問題が生じていた。これらの問題を解決すべく司法IT化の一環として2017年8月に中国最初の「インターネット裁判所」が杭州市で開設された。

(2)につづく



[1] 第13次5年計画、2016年-2020年

[2] 熊秋紅、人民論壇、2018年02月、82頁

 

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