◇SH1629◇社外取締役になる前に読む話(8)――取締役会での実質的議論への参画⑷ 渡邊 肇(2018/02/07)

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社外取締役になる前に読む話(8)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

VIII 取締役会での実質的議論への参画――情報共有(その2)

 先回は、社外取締役が経営会議等への出席を希望した場合、会社が社外取締役に対して開示できる情報に制限があることを理由として、その要請を拒否できるかという問題につき、取締役会付議事項に関して、社外取締役に対して開示できる情報とその他の取締役に開示できる情報を区別することはできないと考えられることなどを紹介させて頂いた。

 今回は、取締役会付議事項ではない議案について考えてみよう。因みに、ワタナベさんの疑問は以下のようなものであった。

ワタナベさんの疑問その5

 経営会議へ出席したい旨、社長に進言したところ、経営企画室の担当取締役から、経営会議においては、社外取締役に開示できない情報も提供されるため、ご遠慮頂きたいと言われた。

 会社のスタンスは妥当なのだろうか。

 

解説

 経営会議等の会議を開催している会社にあっては、取締役会付議事項についての内規が存在するのと同様、当該経営会議等で審議されるべき議案についても、内規により付議基準が定められていると思われる。このような内規により、取締役会付議事項にはならないが、経営会議等の付議事項となる案件が議案になった場合を例にとって考えてみよう。例えば一定金額以上の投資案件につき、取締役会付議基準には達していないが、経営会議等の付議基準の金額に達しているような案件がこれに該当することになる。あるいは、支店や工場等の事業所の閉鎖案件については、取締役会付議事項とはしないが、経営会議等の付議事項とされている会社もあるだろう。このような取締役会付議事項ではない議案について、社外取締役に対して開示できない情報が含まれていることを根拠として、会社側が社外取締役の出席を拒否することはできるのだろうか。

 この問題を考える視点は、下記のようなものになると思われる。

  1. 1. 社外取締役の職務は、業務執行取締役の職務から業務執行行為を除いたもの、すなわち、業務執行に関する決定と業務執行取締役の業務執行行為の監視である。これら職務の対象が取締役会付議事項に限定されるのであれば、取締役会付議事項ではない議案について社外取締役が関与することを拒否することを正当化する余地もあろう。社外取締役の職務は、取締役会付議事項に限定されるのだろうか。
  2. 2. 会社と取締役との関係には委任契約が存在し、取締役は、この委任契約上の義務として、会社に対して善管注意義務を負担する。取締役は、この善管注意義務の一環として、会社に対し、機密情報に関する守秘義務を負担していると解される。この、取締役が会社に対して負担している守秘義務の程度が、その他取締役に比して低いと解されるのであれば、取締役会付議事項ではない議案に関する社外取締役の関与を拒否するという取り扱いが正当化されることもあり得るかもしれない。そのように解することは可能なのだろうか。

 以下、検討していこう。

 まず一点目であるが、先回解説したとおり、会社法は取締役の業務執行決定権能につき、社外取締役とその他の取締役で何らの区別もしていないし、社外取締役の業務執行決定権能を取締役会付議事項に限定する旨の規定もない。会社法は重要な業務執行の決定を取締役会の専権事項としているが(会社法362条4項)、これは会社にとっての重要事項の決定を取締役会以外の機関で決定することを禁じているに過ぎず、かかる重要事項以外の事項を取締役会で決定することを禁ずる趣旨ではない。取締役会に諮るべき事項の重要性の判断は会社の裁量に任されているのであり、且つこれまで検討したように、取締役会以外の機関による意思決定につき、社外取締役を関与させるか否かも会社の裁量により決定されている。取締役会付議事項ではない議案について社外取締役の関与を否定したとしても、それは専ら会社自身の独自の判断に基づくものに過ぎない。社外取締役の職務の範囲が、かかる会社の独自の判断で決定されるとすると、会社を取り巻くステークホルダーの利害関係を著しく阻害することになり、妥当ではなかろう。

 社外取締役の監視義務についても同様であり、社外取締役の監視義務の範囲、程度を、その他の取締役と区別する法的根拠はない。今後詳細に解説する予定であるが、取締役の監視義務につき、取締役会付議事項とそうでない事項について区別をし、後者については、責任発生要件を加重する裁判例はある。しかしながら、この裁判例も、取締役会付議事項ではない事項について、監視義務の対象外とするものではない。

 また、二点目の守秘義務についてみても、取締役が会社に対して負っている守秘義務の程度について、社外取締役とその他の取締役を区別し、社外取締役の守秘義務の程度がその他の取締役に比べて低いと考える法的根拠はない。

 以上のとおり、ワタナベさんが経営会議等での審議状況につき、取締役会への報告を求めた場合、会社は、かかる要請に対し、取締役会に付議されない事項についても、社外取締役に開示できない情報の存在を根拠に、経営会議等での審議状況を取締役会に報告することを拒否することはできないし、仮に取締役会において審議状況の報告を行ったとしても、その前提事実の一部について、取締役会で開示することを拒否することもできないと考えられる。

 

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