ベトナム:ベトナムでの就労が認められる外国人労働者の範囲
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
新労働法が施行されたことに伴い、我々日本人を含む外国人がベトナムで就労するための手続、要件についても変更が生じています。外国人がベトナムで就労するためには原則として労働許可証の取得が必要ですが、2021年2月15日に施行された「ベトナムで就労する外国人労働者及びベトナムにおける外国組織で就労する労働者に関する政令第152/2020/NÐ-CP号」(以下「新政令」といいます。)により、労働許可証を取得するために必要な学歴や職歴の要件が一部変更された点が実務上注目されています。そこで本稿では、従前のルール(政令第140/2018/NÐ-CP号により一部改正された政令第11/2016/NÐ-CP号(以下「旧政令」といいます。)に基づくもの)と比較しながら、実務への影響を解説します。
1. 専門家・技術者の定義
まず、前提として、労働許可証を取得するのは、管理者、監督者、専門家または技術者のいずれかに該当する必要があります。
これらの用語の定義を、新政令と旧政令とで比較すると、以下の通りです。
旧政令 | 新政令 | |
管理者・監督者 | ①管理者とは、企業法第4条第18項に規定された企業の管理をする者または機関・組織の長、副長をいう。 | ①管理者とは、企業法第4条第24項に規定された企業の管理をする者または機関・組織の長、副長をいう。(第3条第4項) |
②監督者とは、機関、組織、企業に属する事業場の長であり、その事業場を直接に指導する者をいう。(第3条第4項) | ②監督者とは、機関、組織、企業に属する事業場の長であり、その事業場を直接に指導する者をいう。(第3条第5項) | |
専門家 | ①外国機関、組織、企業が専門家であると認定した証明書を有する場合 | ①[削除] |
②大学レベル以上の卒業証明書または同等の証明書類を持ち、ベトナムで就労する予定の職位に適合する分野を専攻し、その専門分野に関する仕事に3年以上従事した経験を持つ者 | ②大学レベル以上の卒業証明書または同等の証明書類を持ち、ベトナムで就労する予定の職能に適合する分野を専攻し、その専門分野に関する仕事に3年以上従事した経験を持つ者 | |
③[新設] | ③ベトナムで就労する予定の職能に適合する職業証明書(chứng chỉ hành nghề)を持ち、その専門分野に関する仕事に5年以上従事した経験を持つ者 | |
④他の特別な場合は首相に検討され、決定される。(第3条第3項) |
④政府首相が労働傷病兵社会問題省の提案に従って特別に決定する場合 |
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技術者
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①最低1年専門技術またはその他の専門教育を受け、その専門分野に関する仕事に3年以上従事した経験を持つ者 |
①最低1年専門技術またはその他の専門教育を受け、その専門分野に関する仕事に3年以上従事した経験を持つ者 |
②[新設] |
②ベトナムで就労する予定の職能に適合する仕事に5年以上従事した経験を持つ者 |
この表から分かるとおり、まず管理者及び監督者については定義の文言上の変更はなく、労働許可証の申請に必要な提出書類としても、「管理者・監督者であることを証明する書類」が必要とされているだけで変更ありません。なお、管理者の定義が引用している企業法第4条第24項は、会社の会長、社員総会や取締役会の構成員、社長などを企業法上の「管理者」として定義しています。また、監督者の定義にある「事業場」(đơn vị)は、労働法第171条第1項で、基礎労働組合が設立される単位として規定されている用語であり、支店や駐在員事務所のような組織単位を意味しているものと考えられます。
専門家については、旧政令では「企業が専門家であると認定した証明書」があれば専門家と認められていました。しかし、新政令ではこれが削除されており、この点が実務上大きな影響を与えることが懸念されています。すなわち、旧政令では、外国人労働者を派遣する親会社が専門家であることの証明書を発行することで、比較的容易に専門家であると認められていたのに対して、新政令ではそのような手段が取れなくなってしまうことになります。専門家に該当するというためには、「大卒+3年以上の職歴」又は「職業証明書+5年以上の職歴」を有する必要があります。「職業証明書」とは、士業の免許など特定の職業での活動を認められた証明書を意味します。なお、学歴及び職歴についてはベトナムで従事する予定の業務に適合した分野でのものである必要がありますが、この点は従前と同様です。
技術者については、従前の1年以上の専門教育+3年以上の職務経験に加えて、5年以上の職務経験だけでも技術者と認められることになりましたので、学歴とベトナムでの予定業務とが一致せず専門家に該当しない場合には、技術者に該当するものとして労働許可証を申請することも考えられます。「技術者」という訳語からは技術系の役職のみを対象としているようにも思えますが、ベトナム語の用語としてはもう少し広く、実際事務職でも認められている例はあります。
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(さわやま・けいご)
2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。
現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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