◇SH2792◇マレーシア:会社法の2019年改正 松本岳人(2019/09/25)

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マレーシア:会社法の2019年改正

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 松 本 岳 人

 

 2019年7月、マレーシアの国会においてマレーシア会社法(the Companies Act 2016。以下「会社法」という。)の一部を改正する法律案(the Companies (Amendment) Bill 2019)が可決された(以下「2019年改正法」という。)。会社法は、1965年に制定されたマレーシアの旧会社法(以下「旧会社法」という。)を全面的に改正する形で2016年に成立し、2017年1月31日から本格的に施行され、2019年3月15日に全面施行に至ったところである。[1]2019年改正法は、会社法の枠組みを抜本的に変更するものではないが、会社法の解釈が不明確な点を明確化し、手続を簡易化するなど実務上影響のある改正も含まれている。そこで、本稿では、2019年改正法による会社法の主要な改正点を概説する。

 

1.書面の要式性

 会社法66条には、会社によって締結される書面の要式性を定める規定がある。そこでは、会社が締結する書面(document)については、①会社登録印(Common Seal)を押印する方法、又は②2人以上の執行役(そのうち最低1人は取締役)が署名する方法、若しくは取締役が1人の会社の場合には、当該取締役及び証人が署名する方法によることが規定されている。かかる要式性を満たす必要のある書類の範囲は広範に定義されており、請求書など会社が日常的にやりとりする書面まで文言上は上記の要式性を満たす必要があると解されるところであった。

 この点、マレーシアの企業委員会(Companies Commission of Malaysia)は旧会社法において要式性が要求されていた書面の範囲を拡大する趣旨のものではない旨の説明を行っていたものの、2019年改正法において、条文上も要式性が要求される書面の範囲が限定され、会社法66条の要式性は法律、決議、契約又は定款において要求される場合にのみ適用されることが明確化された。

 

2.優先株式の償還

 会社法72条では、優先株式についての償還方法として、利益から償還する場合に加えて、資本から償還することができる旨が規定されている。しかしながら、会社法においては、優先株式を資本から償還する場合であっても、当該償還額に相当する金銭について利益から分配を行うことが規定されていた。

 この点、2019年改正法において、資本から優先株式を償還する場合には利益の分配を伴う旨の規定の適用がないことが明確化され、支払能力陳述書(Solvency Statement)を提出することで、優先株式の償還ができることが明確化された。

 

3.株式の変更に関する株主総会決議

 会社法84条において、株式の併合又は分割等の株式の変更(alteration of share capital)に関しては、株主総会による承認が必要であるところ、その承認には特別決議(株主総会の21日前までに通知及び出席株主の4分の3以上の賛成による承認)が必要とされていた。

 この点、2019年改正法においては、株式の変更が株主の議決権比率に直接的に影響を与えるものではないことから、承認にかかる決議要件が緩和され、普通決議(出席株主の過半数の賛成による承認)で可決できることとされた(ただし、定款において異なる定めをすることもできる。)。

 

 その他にも、会計監査人の選任に関する株主総会決議、清算手続におけるレシーバー(Receiver)の権限、清算人の欠格事由、裁判手続における担保提供など、多岐にわたる項目の改正がされていることから、今後の会社運営に当たっての影響に留意する必要がある。

以上

 


[1]会社法の内容については、「マレーシア:新会社法の施行とポイント(上)(下) 長谷川良和」(2017年4月5日(SH1097)、13日(SH1110))を参照。

 

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