インドネシア:投資調整庁の新投資規則の施行(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
弁護士 小 林 亜維子
ジョコ・ウィドド大統領の経済政策パッケージの一環として投資調整庁(Badan Koordinasi Penanaman Modal, BKPM)規則2017年第13号(以下「新規則」という。)が昨年末に制定、本年1月2日に施行され、2015年制定の複数の投資調整庁長官規則(以下「旧規則」という。)と置き換えられた。投資調整庁はインドネシアでの外国投資家の投資活動を監督する行政機関である一方で、現大統領の意向を受けインドネシアの投資環境の改善に向けて近年積極的に投資手続きの簡易化及び迅速化を進めてきた。今回の新規則でも外国投資家にとって重要な改正が多数盛り込まれていることから本稿ではこれから全4回にわたって新規則における主な改正点を概説する。
1. ダイベストメント義務の免除規定の導入
1994年政令第20号において、設立時に100%外国資本によって設立されたインドネシア法人(外国資本企業)は、事業の開始から15年以内に株式の一部を外国株主からインドネシア国籍を有する者又は外国資本が株主に一切含まれていないインドネシア法人(内国資本企業)に譲渡させなければならないとするルール(以下「ダイベストメント義務」という。)が導入され、その後の大統領令や投資調整庁長官規則の制定を経ても、過去に投資調整庁が発行した許認可書の中でダイベストメント義務が課せられている外国資本企業に関しては、依然その履行が義務づけられてきた。いわゆる15年ルールと呼ばれるものであり、譲渡しなければならない株式は額面ベースで1000万ルピア相当と僅かではあるものの、ダイベストメント義務を履行することで実質100%の親子関係が崩れ、1%であっても少数株主が生まれることで株式配当や議決権の行使等の会社運営が煩雑になることから、外資系企業の間では長年頭を悩ます問題であった。その後、旧規則においては、ダイベストメント義務の履行として一旦インドネシア国籍を有する者又は内国資本企業に譲渡した株式を外国株主が買い戻すことを認める明文の規定が置かれたことで、譲渡と買戻しの手続きをセットで行うことで譲渡前の株主構成に戻すことが可能となり、それまでダイベストメント義務の履行期が到来しているもののまだ履行できていなかった外資系企業の多くがこの買戻手続きを行った。その一方で、このような買戻し手続きを許容するということは、ダイベストメント義務を履行させることに実質的な意義が無いことを投資調整庁が事実上認めたものとも評価でき、さらに一歩踏み込んでダイベストメント義務自体を免除すべきであるという意見が実務界でも強まっていた。
このような状況の下、新規則ではこのダイベストメント義務を実質的に免除する規定が導入され、この問題に事実上の決着が着けられたのではないかと考えられる。具体的には、ダイベストメント義務が現在も存続しているという従来の立場は維持しつつも、100%外国資本企業の場合、既存株主がインドネシア国籍を有する者又は内国資本企業との間で株式を売却する旨の合意をしていないことを株主総会決議で確認しその旨の議事録を作成し、投資調整庁に外国投資登録の変更を申請することで、例外的に許認可書に記載されている義務を抹消し、ダイベストメント義務の履行を免除するというものである。(なお当然ではあるが、既存株主がインドネシア国籍を有する者又は内国資本企業との間で当該外国資本会社の株主を譲渡する旨既に合意しているような場合にまで、かかる合意に基づき株式を譲渡する義務が免れられるわけではない。)新規則における上記免除規定により、これまで日系企業が長い間悩まされてきたダイベストメント義務から事実上完全に解放されることになる可能性が高く、大きな意義のある改正と評価できる。
(2)につづく