企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
5. 企業活動全体が対象になる法規制の遵守
(2) 全社が対象になるその他の法令
1) 消防法
消防法は、火災の予防・警戒・鎮圧を行い、火災・地震等の災害による被害を軽減するための消防活動(警戒、消火を含む)の規律、消防用設備の基準、火災の原因・損害の調査、救急業務等について定める法律である。そして、これらの活動の管理について、市町村・都道府県・国の役割と連携のあり方[1]を規定する。
企業には、一般に次の事項の遵守が求められる。
- 建築物の新築・増改築等には消防同意が必要
- 危険物貯蔵所の設置・運用の基準
- 消火器・報知機等の設置
- 防火管理者(甲種・乙種[2]。高層建築物には統括防火管理者)の選任
- 「防火管理に係る消防計画」の作成
(注) 消防隊侵入口(赤マーク)を原則「高さ31m以下、3階以上」に表示することについては建築基準法[3]が定める。
2) 環境基本法、その関係法
環境基本法は、政府が、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染及び騒音に係る環境上の条件について、人の健康保護及び生活環境の保全上で望ましい基準を定める[4]べきことを規定している。
具体的には、化学物質関連法規(毒物及び劇物取締法、化審法等)、大気汚染防止法、水質汚濁防止法等が制定されており、企業はこれを遵守しなければならない。
企業は、規制物質を用いない商品を開発し、工場等から排出する廃材・汚泥・排水等の産業廃棄物を適法に処理等しなければならず、部品・材料毎に環境規制物質の含有量等の厳しい自社基準を定めて、仕入先にその使用禁止や削減状況の報告を求めるグリーン調達に取り組む例が多い。
廃棄物処理を業とするには、廃棄物処理法に基づいて、産業廃棄物は都道府県知事、一般廃棄物は市町村長の許可を取得しなければならない[5]。
(参考) 環境対策では、例えば自動車の排ガス対策のように、道路運送車両法の保安基準、大気汚染防 止法の特別法である自動車NOx・PM 法、低性能車排除や交通渋滞緩和を指向する地方公共団体 の条例等の複数の規制を組み合わせ、社会全体として成果を上げる取組みが行われる。
3) 会社法
- ・ 株主総会・取締役会・監査役会等の開催・運営、役員選任(社外役員の確保を含む)
- 法令に違反すると、裁判により、決議が無効とされる。
- ・ 役員と会社の間の「利益相反取引」の禁止
-
取締役の忠実義務・善管注意義務に係る重要事項であり、会社に大きな損害を与える可能性がある。
外観的には、役員兼務・取引関係を監視すれば問題の有無が分かる。取締役会への報告が行われ、そこで必要な承認が行われていれば、問題になることは少ない。
実質的に支配している(影響力を及ぼしている)会社との間で行われる利益相反取引については、外見では分かり難く、内部通報制度が有効である。
4) 公益通報者保護法(内部通報窓口の設置)
公益通報者保護法は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等、並びに、公益通報に関し事業者・行政機関がとるべき措置を定めて公益通報者の保護を図り、国民の生命・身体・財産等の利益の保護に関わる法令遵守を図り、もって国民生活の安定・社会経済の健全な発展に資することを目的として制定された(1条)。
同法の制定(2004年)を機に、多くの企業(特に、大規模企業)で内部通報窓口が設置され、内部通報制度が運用されている。
企業では、この内部通報制度が持つ企業の役員・幹部を守る機能にも着目し、その効果を前向きに評価して、この制度を積極的に活用すべきであろう。
(「内部通報制度」については、後に詳述する。)
[1] 消防組織法は、「市町村の消防は、条例に従い、市町村長がこれを管理する(7条)」こととしており、「市町村の消防は、消防庁長官又は都道府県知事の運営管理又は行政管理に服することはない(36条)」。ただし、「市町村は、必要に応じ、消防に関し相互に応援するように努めなければならない。(39条)」
[2] 防火対象物の用途(不特定多数の者が出入りする集会場・飲食店・ホテル・病院等、又は、学校・図書館・工場等の特定用途以外の用途)及び防火対象物の収容人員の規模によって、甲種(大規模)と乙種(小規模)に分かれる。
[3] 建築基準法施行令126条の6、126条の7第6号
[4] 環境基本法16条
[5] 廃棄物処理法14条6項、7条6項