◇SH2879◇民事司法改革シンポジウム 民事司法改革の新たな潮流 ~実務をどう変えるべきか~⑥(2019/11/11)

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民事司法改革シンポジウム
民事司法改革の新たな潮流~実務をどう変えるべきか~⑥

◇開催日 2019年3月23日(土)午後1時~午後4時

◇会 場 弁護士会館2階講堂クレオ

 

コーディネーター・出井 さて、三木先生から包括的な提言をいただきましたが、それぞれ有田さん、長谷川さん、ユーザーサイドから一言ずつコメントをいただいて、その上で、実務家サイドで小林さんからコメントをいただきたいと思います。それでは、有田さんのほうから。

有田 和解に至ることが多いということの話の中から言えば、何か良さげではあるのですが、実は相手方の保護と人権など、そういうところが非常に気になるところです。そういうことが解決されているのかなと思いましたが、よく理解していませんので、この程度のコメントで終わらせていただきます。

長谷川 三木先生のお話にコメントさせていただく前に、ちょっと宗像長官のお話に関連して、簡単に申し上げたいと思います。先ほど、宗像長官に御説明いただいた特許改正の御提案につきましては、正直申し上げまして、経団連としては、これは既に2017年の3月に報告書が取りまとめられた特許制度小委員会の報告書において、導入が見送られた査察制度をもう一度再検討するようなものではないかなということで、結構驚きをもって受け止めておりました。
 懸念は二つございました。一つは、新しい制度では査証制度という名称でございますけれども、その制度の濫用を懸念していたということでございます。これにつきましては、先ほど宗像長官も丁寧に御説明いただきましたけれども、侵害行為の立証の必要性、あるいは特許権侵害の蓋然性、他の手段では十分に証拠が集まらないというか、補充性に加えて、先ほど相当性ということでお話がありましたけれども、相手方の負担が過度にならないようにというような要件も新たに加えていただきまして、相当厳格なものにしていただいたという認識をしております。それによって、一定程度懸念が解消されているのかなと思っているところでございます。
 2点目は、これも宗像長官からお話がありましたけれども、企業秘密といいますか営業秘密にかかる漏洩に関する懸念ということです。これにつきましても当初の案では、申立人の代理人の参画を査察時に認めるというような案も検討されていたところでございましたけれども、宗像長官のお言葉によれば、それぞれの段階で情報漏洩に係る防止策を種々講じたということで、例えば査証人の忌避に関する申立て等もできるということで、これにつきましても相当懸念が払しょくされたものかなと思っているところでございます。
 さて、三木先生の御提案につきましては、確かに証拠収集、あるいは情報収集ということかもしれませんけれども、これにつきまして、現在の裁判制度について、私どもの会員から、今の制度が不備なので改善すべきというような話は、少なくとも私どもで伺ったことはございません。
 他方で、先ほど先生がおっしゃったディスカバリーのようなものを念頭に置くといたしますと、それについて、当事者の負担は相当なものになるのではないかという懸念は極めて大きい声としてございます。アメリカで事業活動をしていて訴えられた場合に、何がイヤかということを私どもの会員に伺いますと、ディスカバリーというのは、やはりイヤだという意見が相当に大きいということは、常々聞いているところでございます。
 先ほど、三木先生のほうから、いやいやディスカバリーの対象になる企業側、あるいは対象になる人のほうでも、いろいろな保護措置があるんですということで伺いましたけれども、これもちょっと具体的な中身を検討する中で今後議論していく話なのかなと思っているところでございます。
 一般論でございますけれども、制度改正を考えるときに、他の国の制度というのを参考にするのは非常にいいことだと思うんですけれども、理念先行して制度改正はしたものの、結局コストばかりかかるということになっては、本末転倒なのではないかなと思わなくもありません。以上です。

コーディネーター・出井 ありがとうございます。それでは、小林さん、お願いします。日弁連も証拠・情報収集の問題に関しては、グランドデザインの12ページに載せておりますけれども、2012年に文書提出命令及び当事者照会制度改正に関する民事訴訟法改正要綱試案というものを発表しております。

小林 この証拠の問題ですが、今経済界からの御意見もございました。三木先生がおっしゃっておられる金魚すくい的な今の日本の証拠法制には様々な問題がある。本当に見える証拠しか取りにいかないし、見える証拠も取りにいってもするりと逃げてしまうと、これはやはり暗闇の中で裁判をしてしまう。これは本当に大きな課題だろうと思います。
 数年前に東京三会で、現在の民事裁判において、証拠に基づく裁判がされていないと考えている人がどれぐらいいるかと、代理人、弁護士へアンケートをしたところ、8割を超える人がそういう実態があるので、これを改善すべきだという結果もございます。
 我々としても、急激な変更というのがいろいろ課題も多いということはわかるわけですけれども、一つだけ申し上げますと、文書提出義務というのが民事訴訟法の中にはあります。民事訴訟法の220条です。今日、専門家の方が多いので、民訴法の220条のことをお話ししたいと思います。
 今、文書提出義務の除外事由がない場合に文書を提出する義務を負うことになっておりまして、除外事由がいくつもあるんですよね。自己使用など様々な除外事由がありまして、なかなか法廷に出てこない構造に訴訟法上なっているわけですね。やはりこれを少し変える必要があるのではないだろうかと。
 具体的には、やはり文書提出義務の除外事由に該当する場合を除き、文書提出は拒むことができないと条文を改めまして、文書提出義務の除外事由の存在の立証責任は、文書を持っている人、所持者側にあるというふうに少し変えるだけでも随分変わってくると思います。これは、このたびの証拠法、情報収集の充実という見地から、ここについては変えていくということを是非お願いをしたいと思っているところです。
 先ほど、有田会長から人権と言われました。プライバシーの問題等の話だろうと思いますけれども、これは、やはり配慮しなければいけないということで、弁護士会もこの点について、いわゆる社会生活を営むにあたって、それを開示されることによって重大な生活上に影響を与えるという場合には、やはりこれは出さなくても良いと。そういった規定もあるような秘密保持命令といいますか、そういった秘密保持義務も併せて設けていく。そういったバランスをとりながら、証拠ができるだけ裁判に出ていく、そういった対応も今後していく必要があるのではないかなと今思っているところでございます。

コーディネーター・出井 それでは、このセクションの最後に、三木さん、何か補足があればお願いいたします。

三木 今小林先生がおっしゃった点は、かねてより私個人も、私が参加しております研究会も、そういう提言を打ち出しているところです。先ほど私が申し上げた三つのものから言うと、3番目のツールの部分にかかるわけです。そのこと自体は、検討に値することは間違いがないと思います。
 ただ、そういう部分の改善は進めていくと同時に、金魚すくい方式の見直しも考える必要があるのではないか。やはり、そうした改革のみでは、争点整理が終わった後に、ピンポイントでこの文書を出してくれというところにしかつながらなくて、抜本的な解決にはならないと思われます。司法改革はうまくいっているかという追跡調査の中で、一番問題視されているのは、争点整理がむしろ長引きはじめているという点です。やはり、早期に広く情報を取れる制度がないと、そうした問題の改善にはつながらないということで、どちらも重要だろうと思います。
 それから、経団連の方々とかが、証拠収集とか情報収集の拡充ということに対して反対されるというのは、それは、お立場上もちろん理解できることです。振り返ってみれば、文書提出命令制度も、平成8年改正で拡充したわけですね。そのときにも、経団連の方々などは猛反対されたけれども、今は何事もなく、以前に比べると良くなった状態で実務が行われております。当時、言われたような弊害が起きているとは思えない状態で動いているので、それぞれのお立場上、反対されることはされるのだろうなというのが実感であります。

コーディネーター・出井 ありがとうございます。大分時間が押してまいりましたが、最後に重要な課題が残っております。損害賠償の問題です。窪田さん、お待たせいたしました。

⑦・完につづく

 

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