◇SH1949◇ベトナム:新PPP政令の概要(1) 澤山啓伍(2018/07/05)

未分類

ベトナム:新PPP政令の概要(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 ある資料によれば、ベトナムでは1990年-2014年の間に、合計336件のPPP案件が実施され、その内訳は、電力229件、道路86件などとなっている。しかしながら、なにをもって「PPP」というかは甚だ曖昧であり、この案件数にカウントされている「PPP」の内容は様々であろうと思われる(例えば、PPPの本質は建設と維持管理をバンドリングして民間がサービス提供することによる効率性向上を得ることにあると言われている[1]ところ、そのような本質を具備しないBT案件もベトナムではPPPと呼ばれる。)。しかも、上記のうち、外資が含まれるPPP案件は11件のみであり、特にグリーンフィールド案件で外資が入っているのは発電所BOT案件に限られている。

 高速道路の通行料などの受益者負担金により建設費等を賄う形のPPPにより、政府予算の制約が緩められるという誤解(このような形のPPPにより政府が建設費を節約した金額は、現在価値としてはコンセッション事業者に払われる前の受益者負担金収入に等しいはずである[2]ため、結局は将来からの借り入れに過ぎない。)が未だに流布されているからではないだろうが、ベトナム政府は今後もより積極的にPPP方式によるインフラ整備を進める方針のようである。

 そのような方針を示すものとして、2018年5月4日、ベトナム政府は官民連携(PPP:Public Private Partnership)に関する新たな政令第63/2018/ND-CP号(以下「新政令」という)を公布した。新政令は、2015年に公布・施行されたこれまでの政令第15/2015/ND-CP号(以下「旧政令」という)を代替し、2018年6月19日に施行される。

 本稿では、この新政令の内容について、新政令にしたがったPPP案件の計画段階から実施のための契約締結までの流れに沿って、旧政令と比較しながら概説する。

 

(1) 事前事業化調査レポート(以下「Pre-FSレポート」という)の作成・評価

 政府提案型(Solicited)のPPP案件の場合、所轄の政府機関がまずPre-FSレポートを作成し、その専門部署がその評価を行う。民間提案型(Unsolicited)のPPP案件の場合、提案する事業者が同様にPre-FSレポートを作成し、所轄の政府機関の下にあるPPP活動管理局がそれを評価する。

  1.  PPPが奨励される分野
  2.   対象分野に関する旧政令と新政令の文言を比較すると、旧政令では列記した分野がPPPの対象であると述べているだけであるのに対して、新政令では、列記した分野におけるPPP形式での投資を奨励するとしている。これはPPP形式での投資が必ずしもスムーズには進んでいない中、この分野での投資を奨励する政府の意向を強く示したい意図であろうと思われる。各政令で記載されている分野は以下の通りであり、若干の構成変更のほか、新政令で追加された分野(下線部分)がいくつか見受けられる。
旧政令における対象分野 新政令における奨励分野
交通インフラ施設及び関連サービス 交通
公衆電灯システム、上水道、排水、下水道、社会住宅、再定住住居、墓地 発電所及び送電網
発電所及び送電網 公衆電灯システム、上水道、排水、下水道、公園車・機械及び設備を設置するための建物・敷地、墓地
医療、教育、職業訓練、文化、スポーツ及び関連サービスのインフラ施設 政府機関の庁舎、公務員宿舎、再定住住居、等
政府機関の庁舎 医療、教育、職業訓練、文化、スポーツ、旅行、科学技術、気象学、IT応用
商業、科学技術、気象学、経済地域・工業地域などのインフラ施設、IT応用 商業インフラ、都市圏・経済地域・工業地域などのインフラ、ハイテクインフラ、インキュベーター施設及び、中小企業を支えるコワーキングオフィス
農業及び農村開発、農産物の加工及び販売を生産に結びつけるサービス 農業及び農村開発、農産物の加工及び販売を生産に結びつけるサービス
その他政府首相の決定による分野 その他政府首相の決定による分野

 

(2) 投資方針決定

 プロジェクトの規模・内容に応じて、国会、首相、中央省庁、地方人民評議会又は地方人民委員会が、当該PPP案件を進めるかどうかの投資方針決定を行う。

 

(3) プロジェクトの公表

 投資方針決定が出されたPPP案件は、原則として民間提案型のものも含め、その決定から7営業日以内に公表される。

(次稿に続く)

 


[1] Engel, E; Fischer, R; Galetovic A(安間匡明)『インフラPPPの経済学』(金融財政事情研究会、2017年)17-18頁、樋口孝夫『資源・インフラPPP/プロジェクトファイナンスの基礎理論』(金融財政事情研究会、2014年)68頁参照

[2] Engel, E・前掲[1] 16頁参照

 

タイトルとURLをコピーしました