ミャンマー:法人等の実質的な所有関係の開示に関する新たなルール
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 酒 井 嘉 彦
1. はじめに
2019年11月15日、ミャンマー投資企業管理局(Directorate of Investment and Company Administration。以下「DICA」という。)は、法人等の実質的な所有関係の開示に関する通達(Notification No. 17/2019。以下「本通達」という。)を公表した。本通達は、ミャンマー国内で組成された法人等に広く適用される情報開示に関する新たなルールを定めるものであり、本稿ではその概要を紹介する。
2. 本通達の目的及び対象
本通達は、Legal Person及びLegal Arrangement(総称して、以下「Legal Person等」という。)に対して実質的な所有関係の開示を求めることにより、その透明性及び説明責任を促進し、マネーロンダリング、テロ資金供与及び租税回避行為を防ぐことを目的としている(第2項)。
ミャンマー国内で組成された全てのLegal Person等が、本通達の適用対象とされている(第4項)。
ここで、「Legal Person(s)」とは、金融機関と永続的な顧客関係を構築することができ又は財産を保有することができる事業体(自然人を除く)を指し、そこには、会社、合弁企業、パートナーシップ等の様々な形態の事業体が含まれる。また、「Legal Arrangement(s)」とは、明示信託(express trust)やそれに類似した法的仕組みを意味する。
本通達により開示が求められる「実質的所有権(Beneficial Ownership)」を有する者には、顧客(となるLegal Person)を究極的に保有若しくは支配する自然人、及び、取引が第三者である自然人の利益のためになされる場合の当該第三者を含むとされている。より具体的には、「実質的所有者(Beneficial Owner)」には、Legal Person等に対して、(ⅰ) 5%超の持分及び/又は議決権を直接又は間接に保有する個人、(ⅱ) 取締役会の過半数を指名し又は解任する直接又は間接の権利を有する個人、及び、(ⅲ) 重要な影響を及ぼす権利を有し若しくは重要な影響を実際に及ぼし又は支配権を有する個人を含むとされている。
3. 実質的な所有関係の開示義務等
本通達により、全てのLegal Person等は、自らの実質的所有権に関する最新の情報を取得し、保持するとともに、DICA及び歳入局(Internal Revenue Department)にかかる情報を適時に提出することが義務づけられる(第5項)。また、全てのLegal Person等は、管轄当局による実質的所有者の決定に対して、可能な限り協力するものとされている(第6項)。
実質的所有権に関する情報は、DICAのウェブサイトにおいて利用可能となるオンラインフォームを通じて提出することとされており(第7項)、実質的所有権に関する基礎的な情報は、DICAのウェブサイトを通じて一般に公開されることが予定されている。
その他にも、本通達においては、実質的所有権に関する情報及び記録について5年間の保管義務があることや(第8項)、実質的所有権に関する情報の保護の仕組みがあること(第9項)が規定されるとともに、本通達の違反に対しては、アンチマネーロンダリング法に基づく刑罰が適用され得る旨も規定されている(第10項)。
4. おわりに
本通達は2020年1月1日に施行されるため、ミャンマー国内に投資する外国投資家は、かかる実質的な所有関係の開示のルールの存在に留意する必要がある。なお、具体的な開示の内容及び開示すべき情報の範囲の詳細については、本通達からは必ずしも明らかではない部分があるものの、近い将来、さらなる関連規則や通達が公表されることが予定されている。また、開示された実質的な所有関係に係る情報について、本通達に明記された上記2.記載の目的を超えて、当局による既存の監督プロセスや許認可プロセスにも活用するという方向の議論もなされているようであり、今後もその動向に注目していきたい。
以上