SH3306 べトナム:新労働法による変更点⑥ 時間外労働 澤山啓伍(2020/09/14)

そのほか労働法

ベトナム:新労働法による変更点⑥
時間外労働

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 新しい労働法(45/2019/QH14)(以下「新法」)による現行法からの主要な変更点や、企業が労務管理上気を付けるべきポイントの第6回目として、時間外労働(残業)に関する変更点を解説します。

 なお、弊職らが作成した新法の日本語仮訳が、JETROのウェブサイトで公開されていますので、ご参照下さい。

 

1 時間外労働の上限

 下の表は、現行法及び新法における時間外労働の上限の対照表です。現行法における時間外労働の上限に関しては、SH1998の記事及びSH2752の記事でも解説しましたので、ご参照下さい。同記事でもご紹介したように、新法の法案準備の段階では、時間外労働の上限時間を巡って様々議論がされ、特に、例外的な条件を満たした場合における年間の上限を300時間から400時間に引き上げることが期待されていましたが、国会における審議の結果、最終的には、月の上限を30時間から40時間に引き上げた点以外は、現行法の規制が維持されることになりました。

単 位
現行法
新 法
1日
1日の通常勤務時間(原則として上限8時間)の半分 変更なし(新法第107条2項b号)
(週勤務時間制の場合)通常勤務と時間外労働の合計で12時間 変更なし(新法第107条2項b号)
(週休日・祝日の場合)12時間 労働法の施行政令(労働時間・休憩時間および労働安全・労働衛生に関する労働法の一部条項を詳細に規定する政令第45/2013/ND-CP号を代替する政令)の草案では変更なし
1月
30時間 40時間(新法第107条2項b号)
1年
200時間(ただし、一定の条件の下で300時間に引き上げ可) 変更なし(新法第107条2項c号、3項)ただし、引き上げ条件については一部修正

 

2 時間外労働の引き上げが認められる特別な場合

 現行法及び新法において、原則200時間である年間の時間外労働の上限を、一定の場合に年間300時間まで引き上げることが認められますが、その条件を比較すると、以下のようになります。

 
現行法(政令第45/2013/ND-CP号第4条2項)
新法(第107条第3項)
繊維・縫製・皮革・靴の輸出のための製造・加工、農業・林業・水産物の加工
繊維・縫製・皮革・靴・電気・電子製品の輸出のための製造・加工、農業・林業・塩業・水産物の加工
電力の生産・供給、通信、石油精製、給排水
電力の生産・供給、通信、石油精製、給排水
[該当なし]
高度な専門・技術水準を要するが、労働市場が十分かつ適時に提供しない労働を必要とする業務を処理する場合
その他緊急で遅延できない業務に対処する場合 原料・製品の季節性・タイミングのために緊急で遅延できない業務を処理しなければならない場合、又は事前に予期せぬ客観的な要因により、若しくは天候・天災・火災・戦災の被害、電力不足・原料不足・生産ラインの技術的な問題により発生した業務を処理するためである場合
[該当なし]
政府が定めるその他の場合

 

 現行法下では、④の「緊急で遅延できない業務」に当たるものとして時間外労働の上限引き上げを提供している例が多く見受けられますが、新法では、これについて、「緊急で遅延できない業務」の発生原因を、原料・製品の季節性や、天災・火災・電力不足等の不可抗力による場合に限定しており、現行法と比較して利用できる場合が限定的になるものと思われますので、注意が必要です。

 他方、①には、日系を含む外資系製造業に多い電気・電子製品の輸出のための製造・加工が加えられました。これは、日越共同イニシアティブなどでも要望していたものでした。

 なお、現行法では政令で定められていた事項が、新法では法律で直接定められることになったため、状況に応じて柔軟に時間外労働の上限引き上げができる場合を追加できるよう、⑤が加えられたものと思われます。

 いずれかの条件を満たすものとして年間の時間外労働の上限を引き上げる場合、当局に通知が必要です。政令第45/2013/ND-CP号を代替する政令の草案では、この通知について様式を定めています。また、同草案では、④の場合の通知は事後でよいことになっています。

 

3 その他の留意点

 新法では、現行法に定められている時間外労働が連続した場合の代休措置の規定(現行法第106条第2項第c号)が削除されています。これにより、新法の下では、代休の付与は不要になったものと理解されます。

 また、時間外労働について労働者の同意が必要であることについては変更されていません。なお、政令第45/2013/ND-CP号を代替する政令の草案では、時間外労働について労働者から同意を得るにあたっては、政令で定められた書式を使用することが必要とされています。

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