企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
2. 要件2 「見守り役」の6者が連携して監査の効率と品質を高める
(2) 監査役(会)
① 責任と権限
監査役(会)には大きな権限と責任があり、その監査の結果には一定の水準が期待される。取締役(会)としては、監査役(会)の監査結果を経営に活かすことが重要である。
- (注1)「監査役(会)」は「業務監査」及び「会計監査」を行い、事業報告等に係る監査報告[1]と計算関係に係る監査報告[2]を、株主等に対して行う[3]。監査報告書には、監査の方法及びその内容と、監査結果を記載する[4]。
- (注2) 業務監査を、適法性監査に限るか、妥当性監査を含むのかについては議論がある。
- (筆者の見方) 取締役の業務執行が著しく妥当性を欠く場合は善管注意義務・忠実義務違反の問題として適法性監査の対象になるのであり、近年、業法違反や契約違反が会社の信用を著しく傷つける不祥事が多発していることを考慮すると、監査役の業務範囲は広めに解するのが妥当であろう。狭く解すると、監査役の任務懈怠(善管注意義務違反)が問われることが懸念される。
監査役は、次のように大きな責任を担い、これを果たすために強い権限が与えられている。
1) 不正行為や法令・定款等の違反を阻止する責任と権限がある[5]
-
・ 取締役の職務の執行を監査し、不正行為(おそれがある場合を含む)・法令定款に違反する事実を認めた時は、遅滞なくその旨を取締役(取締役会設置会社の場合は、取締役会)に報告する義務を負う。
必要があれば取締役会の招集を求め、又は、自ら招集できる。 -
・ 監査報告を作成する義務を負う。(定時株主総会の招集通知に添付される。)
取締役の職務遂行に関し、不正行為・法令定款に違反する重大な事実があれば、それを報告する。 -
・ 取締役が会社の目的の範囲外の行為・法令定款に違反する行為(おそれがある場合を含む)をして会社に著しい損害が生じるおそれがあるときは、その取締役に対して「差止請求」できる。
裁判所が仮処分で取締役に行為中止を命ずるときは、担保を立てさせない。 - ・ 会社と取締役の間の訴訟において、会社を代表する。(会社が取締役を提訴、又は、取締役が会社を提訴)
2) 情報源にアクセスできる[6]
- ・ 取締役から、会社に著しい損害を及ぼすおそれがある事実の報告を受ける。(取締役の報告義務)
- ・ 取締役・支配人・その他従業員等に対して事業の報告を求める権限を有する。
- ・ 会社(子会社を含む)の業務・財産の状況を調査する権限を有する。
- ・ 取締役会への出席義務を負い、意見を述べる。
- ・ 監査費用の請求権を有する。
- ・ 会計監査人から取締役の職務執行に関する不正行為・法令定款違反に関する報告を受ける。(会計監査人の報告義務)
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・ 会計監査人に対して、その監査に関する報告を求める権限を有する。
② 高品質かつ高効率の監査を行うための要素
監査役(会)が高品質かつ高効率の監査を行うための要素として次の1)~3)が考えられる。
1) 監査計画を会計監査人・内部監査部門と調整して策定し、監査品質を向上する
監査計画策定時の留意事項を次に記す。
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関係者間で、役割分担の確認、適切な情報共有、リスク認識の共有、潜在リスクの想定等を行う。
監査の対象(事業部門、部署、業務内容等)、監査日程等を調整して、無用な重複を避ける。
監査役(会)、会計監査人、内部監査部門がそれぞれの課題意識と監査結果を可能な範囲で共有する。
コンピュータ・システムの適切性は、自らの責任で実査する。(専門家への依頼を含む) -
(筆者の見方)
監査計画ができた時に、「監査の品質を、半分確保できた」という充実感を持てるようにしたい。
2) 内部通報の情報を監査役(会)が活かす
窓口を監査役(監査役室を含む)に直結する(専門窓口を設置)。
直結しない場合は、内部通報窓口と連携する。(情報共有する方法に関する規程を定めておく。)
3) 監査役に、必要なスキル・資質を有する者を起用する
第4章第2部3.「(3)監査担当者が備えるべき資質」参照
4) 企業グループでは、監査役(会)ネットワークを作って監査業務で連携する
監査役等は、グループ全体の内部統制システムの監査については、親会社の監査役等と子会社の監査役等の連携により、効率的に行うことを検討すべきである[7]。
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(筆者の見方)
企業の組織図を見ると、多くの企業で、本社・社内組織(事業本部・カンパニー・事業部等)・子会社組織を構成する機関・職能が、相似形で編成されている。この場合は、それぞれの機関・職能の間の連携がネットワークの基軸になる。 -
例 監査役(内部監査部門長を含む)会議、営業・技術(開発、設計、生産技術等)・製造・購買・総務・人事・経理・システム・法務等の職能会議 等
③ 他の監査関係者との連携
- 〔監査役等が考えている会計監査人(公認会計士)との連携〕
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監査役等は、会計監査人と定期会合を持ち、必要に応じて監査役会への出席を求め、1会計監査人から監査に関する報告を適時に受領して意見交換し、2監査計画の概要を受領して監査重点項目の説明を受け、3自ら行った業務監査の結果を会計監査人に提供し、4必要に応じて会計監査人の往査・監査講評に立合い、監査の実施経過報告を求める。[8]
- 〔会計監査人が考えている監査役との連携〕
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監査報告書における「監査上の主要な検討事項(KAM)」の記載は、監査人と監査役等の間のコミュニケーション(略)を通じ、コーポレート・ガバナンスの強化や、監査の過程で識別した様々なリスクに関する認識が共有されることによる効果的な監査の実施につながること等の効果が期待される[9]。
- 〔代表取締役と監査役等の定期的会合〕
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監査役は、代表取締役との定期的会合を設けて、必要事項を確認し、意見交換を行う。[10]
- 〔監査役等が考えている内部監査部門との連携〕
- 上場会社は、内部監査部門と監査役との連携を確保すべきである。[11]
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監査役等は、内部監査部門等と緊密な連携を保ち、組織的かつ効率的な監査を実施するように努めるとともに、内部監査部門等から監査計画・監査結果の報告を定期的に受け、必要に応じて調査を求める。[12]
- 〔監査役等が考えている社外取締役との連携〕
- 監査役等は、社外取締役との情報交換・連携を進め、監査の実効性の確保に努める。また、社外取締役が独立性に影響を受けることなく情報収集力の強化を図ることができるよう、社外取締役と連携する。[13]
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ただし、社外取締役も監査役の監査の対象であることに留意し、特に、利益相反には注意する。
- 〔監査役等が考えている第三者委員会との連携・協働〕
- 監査役は、重大な企業不祥事が発生した場合に設けられる第三者委員会の委員に就任することが望ましい(監査役として会社に善管注意義務を負う。)。
- 就任しない場合も、不適切な場合を除き、第三者委員会から説明を受け、監査役会への出席を求める[14]。
[1] 会社法436条2項2号、会社法施行規則129条、130条
[2] 会社法381条1項、436条1項・2項、会社法施行規則116条3号、会社法390条2項1号
[3] 会社法436条1項・2項、437条、会社法施行規則132条1項
[4] (取締役会+監査役会+会計監査人)の株式会社の場合の監査報告書の記載の要点は次の通りである。なお、監査報告書の記載事項については日本監査役協会「監査報告書ひな型(平成29年9月29日)」に詳しい説明がある。〔監査報告書の要点〕1.監査役・監査役会の監査の方法・内容:①監査役会は、監査方針・職務分担等を定め、各監査役から監査の実施状況・結果、取締役等・会計監査人から職務の執行状況の報告・説明を受けた。 ②各監査役は、監査役監査基準に準拠し、監査方針・職務分担等に従い、取締役・内部監査部門・他の使用人等と意思疎通を図って情報収集・監査環境の整備に努めて次の監査を行った。1取締役会等の重要会議に出席し、取締役・使用人等から職務執行状況の報告・説明を受け、重要な決裁書類等を閲覧し、本社・主要な事業所で業務・財産の状況を調査した。2子会社について、その取締役・監査役等と意思疎通・情報交換を図り、子会社から報告を受けた。3「事業報告」に記載される取締役の職務執行が法令・定款に適合することを確保するための体制・その他企業グループの業務の適正を確保する法定の体制の整備に関する取締役会決議と内部統制システムについて、取締役・使用人等からその構築・運用の状況の報告・説明を受けた。4「事業報告」に記載される法定の基本方針・各取組み等は、取締役会等の審議等を踏まえて内容を検討した。5会計監査人が独立の立場を保持し、適正な監査を実施しているかを監視・検証し、会計監査人からその職務執行状況の報告・説明を受け、会計監査人から「職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制」を「監査に関する品質管理基準」等に従って整備している旨の通知・説明を受けた。③以上の方法で「事業報告及びその附属明細書、計算書類及びその附属明細書、連結計算書類」を検討した。2.監査結果:それぞれの監査結果を記す。
[5] 会社法381条1項、382条、385条1項・2項、386条
[6] 会社法357条1項、381条2項・3項、383条、388条、397条1項・2項
[7] 「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(略称、グループガイドライン)4.5」2019年6月28日策定 経済産業省
[8] 日本監査役協会(2015年(平成27年)7月23日)「監査役監査基準47条(会計監査人との連携)1~4」、日本監査役協会監査法規委員会(2016年(平成28年)5月20日)「監査役監査実施要領5章(会計監査人との連携)」
[9] 「監査基準の改訂に関する意見書『一経緯』、『二主な改訂点とその考え方1「監査上の主要な検討事項」について(3)「監査上の主要な検討事項」の記載』」(2018年(平成30年)7月5日 企業会計審議会)
[10] 日本監査役協会(2015年(平成27年)7月23日)監査役監査基準15条(代表取締役との定期的会合)
[11] 東京証券取引所コーポレートガバナンス・コード(2018年6月1日)補充原則4-13③
[12] 日本監査役協会(2015年(平成27年)7月23日)監査役監査基準37条(内部監査部門等との連携による組織的かつ効率的監査)
[13] 日本監査役協会(2015年(平成27年)7月23日)監査役監査基準16条(社外取締役等との連携)
[14] 日本監査役協会(2015年(平成27年)7月23日)監査役監査基準27条(企業不祥事発生時の対応及び第三者委員会)3