コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(40)
―組織風土改革運動第1ステージの総括―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、第1ステージ「信頼回復」の第4ステップ「行動宣言」の採択について述べた。また、第2ステージ「21世紀の組織のあるべき姿」は専門のプロジェクトにより取組むべきであるという筆者の提言が受け入れられず、運動は筆者の手を離れて総務部広報部門が担当したが、現場の参加・協力が得られず自然消滅したことについて述べた。
今回は、組織論の視点から運動の第1ステージについて総括する。
【組織風土改革運動第1ステージの総括】
1. 第1ステージ「信頼回復」の成果と反省
第1ステージの取組みの成果と反省は、下表の通りだった。
成 果 | 反 省 |
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結論を言えば、第1ステージのテーマ「信頼回復」の目的は達成できたが、第2ステージ「21世紀の組織のあるべき姿」を考える取り組みにつなげることができなかった。
2. 第1ステージの反省を踏まえたこの運動の改善点
第1ステージを実践した反省から、この運動では以下の3点が重要になると思われた。
- ⑴ 会長・役員・ゼネラルマネージャーが一体となった短期・強力な取り組みを、万難を排して推進する。
- ⑵ 事件を発生させた乳業部門は、取引再開に全力で取り組んでいたため、他部門からは事件を発生させた当事者部門であるにもかかわらず運動に対するコミットメントが不足しているように見られたが、運動参加者への情報提供を密にして乳業部門に対する他部門の理解を深め、組織全体の結束力を維持・強化する。
- ⑶ 現場の討議テーマを、参加者の理解と納得性に配慮してより具体的なものにする。
3. 第2ステージの取組み
第2ステージの取り組みは、次の4点に留意して実施する必要があると思われた。
- ⑴ 第1ステージ終了後、時間を置かずに取り組む。
- ⑵ 戦略的・抽象的テーマよりも、シンボリックで具体性のあるテーマを考える。
- ⑶ 専門性の高いコアメンバーを選定して、運動を草の根運動から公式プロジェクに位置付け、運動の目的を完遂できる体制を構築する。
- ⑷ 運動に功績のあった者を組織として承認し、表彰あるいは昇進・昇格させる。(この運動を組織が重視しているという強いメッセ―ジを発信する)
4. 進化論的革新から戦略型トップによる革新への転換
今回の筆者の取り組みは、組織論的にはいわゆる「変革型(あるいは創造的)ミドル」によるボトムアップ型の進化論的革新モデル[1]の実践ととらえることができるが、運動の再開と第2ステージの取り組みを強力に推進するためには、戦略型トップによる革新[2](揺さぶり⇒突出と手本の呈示⇒変革の増幅と制度化)が必要である。
何故ならば、一度冷めた運動は、同じ方法で再開しても組織革新のエネルギーを再度引き出すことが難しいことに加え、ボトムアップ型の革新では、組織風土改革を継続する上で必要な革新を妨げる「抵抗」、「混乱」、「対立」のマネジメントが難しいからである。
従って、組織風土改革運動に再度取り組むためには、
- ⑴ 中途半端ではなく、組織文化革新を最後までやり抜く強力なビジョン・戦略の構築
- ⑵ 万難を排して実行する経営トップ層の強力なコミットメント
- ⑶ 優秀な実施コアグループの選定と好結果への処遇
- ⑷ 変革プロセス(特に移行過程)のマネジメント
に、留意する必要がある。
次回からは、再び変革プロセスのマネジメントについて考察する。
[1] 企業パラダイム転換の方法としてミドルが生み出す創発的な変化を取り込み、それを累積していくことによって、意識改革と企業改革を行おうとするモデル。(石井淳蔵ほか『経営戦略論〔新版〕』(有斐閣、1996年)187頁~188頁)
[2] トップが中心になり戦略スタッフや外部専門家の手を借りてビジョンと戦略を示し、現状のままでは存続の危機に陥るとして組織を揺さぶり、提示したビジョンや戦略を有効に実行する突出した手本を示し、改革に貢献した者を承認(表彰、昇進・昇格等)し、更に改革を増幅させて制度化していくモデル。(石井ほか・前掲注[1] 188頁~189頁)