中国:新型コロナウイルス肺炎に起因する
中国従業員の個人情報の取扱いについて(前半)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 鈴 木 章 史
中国における新型コロナウイルス肺炎の国内感染患者は、2月中旬のピーク時から大幅に減少し、地域により状況は異なるものの、中国企業は徐々に事業を再開し始めている。もっとも、中国政府は新型コロナウイルス肺炎の再度の拡大の防止も鑑み、依然として企業に各種の義務を課しており、かかる義務の履行に際して従業員の個人情報を取り扱う必要性が生じる場面がある。本稿では中国企業が従業員の個人情報を取り扱う際に生じる基本的な問題について概説する。
従業員の情報の把握義務
企業は、伝染病の従業員又は伝染病の疑いのある従業員を発見した場合、速やかに最寄りの疾病予防管理センター又は医療機関に報告する義務がある(伝染病防治法第31条)。また、2020 年2 月21 日に国務院が公布した企業・単位における業務再開に係る防疫措置ガイドラインの公布に関する通達(国発明電[2020]4 号)は、(i)従業員の渡航歴を正確に把握し健康管理を行うこと、(ii)隔離中の従業員及び宿舎に入居する従業員に対して毎日2 回の体温測定を実施すること、(iii)欠勤従業員の健康状況を遅滞なく把握すること、(iv)従業員の健康状態を毎日確認し現地の防疫部門に報告するとともに異常事態を発見した場合には遅滞なく報告すること等、企業による従業員の健康管理に関する義務を定めている[1]。
個人情報への該当性
従業員のいかなる情報が個人情報に該当し規制の対象となるかという点について、ネットワーク安全法第76条第5号及び個人情報安全規範第3.1条別表A.1によると、個人情報には、個人の基本情報(氏名、生年月日、電話番号、電子メールアドレス等)、個人の健康生理情報(発病や治療等により生じる関連記録であり、例えば、疾病、検査記録、伝染病歴及び個人の身体的健康状況について生じる関連情報等を含む)及び個人の位置情報(移動の軌跡、宿泊情報等)等が含まれる。また、個人の健康生理情報及び個人の位置情報については、個人センシティブ情報にも該当し(個人情報安全規範第3.1条別表B.1)、個人センシティブ情報に該当する場合、後述する同意の取得や取扱いの場面においてより慎重な取扱いが求められる[2]。
(後半に続く)
[1] これらに加えて、地方政府によっては別途従業員の渡航歴や健康状態の把握について独自の規定を定めていることもあり、各地の規制状況を確認の上いかなる情報が必要となるか把握しておく必要がある。
[2] 前段に記載のとおり、新型コロナウイルス肺炎に関連して従業員から取得する情報の大半は、個人の健康状態に関する情報であり、個人センシティブ情報に該当すると思われる。