SH5187 タイ:気候変動法の制定に向けた最新動向(下) 佐々木将平(2024/11/12)

組織法務サステナビリティ

気候変動法の制定に向けた最新動向(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 佐々木 将平

 

(承前)

4 カーボンクレジット

 「カーボンクレジット」とは、温室効果ガス削減活動を通じて削減又は隔離された温室効果ガス排出量のうち、二酸化炭素換算重量(CO2e)で測定され、カーボンクレジット認証機関の登録システムにおいて認証かつ記録されたものをいう。各組織が、再生可能エネルギー、林業又はエネルギー効率に関するプロジェクトなど、温室効果ガス排出量を削減・撤廃するためのプロジェクトや活動を、自主的に実施する。これらのプロジェクトによって達成された温室効果ガス排出削減量が、価値を有するカーボンクレジットとなる。本法案では、カーボンクレジットは、一部又は全部の譲渡又は売却が可能な、取引可能資産と認められている。また、本法案におけるカーボンクレジットは、国内で使用されるものか又は国際的に使用されるものであるかを問わず、TGO(又はDCCEにおける登録を受けたカーボンクレジット認証サービス事業者)による登録又は認証が必要となる。なお、カーボンクレジットの取引の仕組みとしては、既にTGOが運営するT-VER(Thailand Voluntary Emission Reduction Program)というプラットフォームが存在し、タイ国内で自主的に実施されるプロジェクトによるカーボンクレジットの売買が行われている。

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 上述のように、管理対象事業体は、カーボンクレジットを、排出量取引制度における排出枠に変換することができる。したがって、管理対象事業体が排出枠を超えて温室効果ガスを排出する場合には、排出量取引制度内の他の管理対象事業体から排出枠を購入すること以外にも、自主的に実施されたプロジェクトからカーボンクレジットを購入した上で、DCCEに対して申請して、排出量取引制度内の排出枠に変換するという対応も採り得る。

 本法案では、カーボンクレジット事業のうち、主要な3つの種類(すなわち、①カーボンクレジット取引センター、②カーボンクレジット認証サービス及び③その他のカーボンクレジット)について、概要を定めている。これらの事業の運営者は、DCCEにおいて、カーボンクレジット事業の登録を受けなければならない。さらに、カーボンクレジット事業の種類ごとに、追加的な資格と要件が規定されている。たとえば、カーボンクレジット取引センターの運営者は、カーボンクレジット取引システムをTGOの登録システムに統合するためにTGOと契約を締結し、証券取引所法を遵守しなければならない。同様に、カーボンクレジット認証サービスの運営者は、TGOが定めるカーボンクレジットの認証基準を遵守しなければならない。

 

5 炭素税

 温室効果ガスの削減を促進するため、本法案においては、原材料の採掘、製造、生産、流通、利用、廃棄などの、製品のライフサイクルにおける一定の段階について、温室効果ガスの排出量に応じて課税を行う炭素税制度が導入されている。この制度では、所定の製品の産業事業者、製造事業者及び輸入事業者に対して、炭素税の納付が義務付けられる。炭素税を徴収するための税率及び基準、方法及び条件の具体的な詳細は、省令で規定される。

 

6 まとめ

 本法案は、今後、DCCEにおける検討を経て年内に閣議に諮られる見込みであるが、その後、議会における審議を経るため、制定までには相応の時間を要すると思われる。また、温室効果ガス報告制度の詳細や排出枠管理の対象となる管理対象事業体の範囲等は、下位規則に委ねられることになるため、それらの内容にも注視が必要である。

以 上

 

(ささき・しょうへい)

長島・大野・常松法律事務所バンコクオフィス代表。2005年東京大学法学部卒業。2011年 University of Southern California Gould School of Law 卒業(LL.M.)。2011年9月からの約2年半にわたるサイアムプレミアインターナショナル法律事務所(バンコク)への出向経験を生かし、日本企業のタイ進出及びM&Aのサポートのほか、在タイ日系企業の企業法務全般にわたる支援を行っている。タイの周辺国における投資案件に関する助言も手掛けている。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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