2020年3月26日号
インド:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 山 本 匡
はじめに
3月25日、小池都知事が新型コロナウイルス感染の現状を「感染爆発の重大局面」と評し、在宅勤務の推奨や週末の外出自粛を呼びかけるなど、国内における新型コロナウイルスの感染加速への緊迫感が増しています。また、渡航制限の拡大等に伴い、海外に子会社・関係会社を抱える企業からの問い合わせも増えているため、速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年3月25日夜時点で判明している情報に基づいています。
全体概況 死亡者:10人、感染者数(累計):606人(3月25日現在) インドでは連日感染者の増加が確認されている。感染者の中にはインド国外からの旅行者も含まれる。人口が多く、人口密集地も多いため、大規模な感染が懸念されており、3月24日午後8時頃に、その約4時間後の25日午前0時からインド全土での21日間のロックダウンの実施が命令される等厳格な措置がとられている。中央政府は州政府に対し、迅速かつ強力な措置をとることを連日要請している。 |
主な政府発表
- ・ 保険・家族・福祉省(Ministry of Health & Family Welfare)がDo’s and Don’tsを公表している[1]。
- ・ インド災害管理法(Disaster Management Act, 2005)及びインド感染病法(Epidemic Disease Act, 1897)が発動。
- ・ インド全土での3月25日午前0時から21日間の完全なロックダウンの実施命令。
渡航情報
- ・ 3月22日から3月29日までの間、国際民間旅客航空便のインドへの着陸が停止された。乗客は国籍を問わず「on Indian soil」に降り立つことが禁止される。なお、3月25日以降、国内民間旅客航空便も運行が停止される。
- ・ 全てのビザが2020年4月15日まで効力を停止した。やむを得ない理由によりインドに入国する必要がある場合は、インド大使館又は領事館にコンタクトしなければならない。
- ・ 日本人へのOn-arrival Visaの発給は停止されている。
- ・ 中国、韓国、イタリア、イラン、フランス、スペイン、ドイツ、UAE、カタール、オマーン、クエートに渡航歴のある者は、インドへの到着後、最低14日間隔離される。
- ・ EU、ヨーロッパ自由貿易連合、トルコ、英国、アフガニスタン、フィリピン、マレーシアからのインドへの渡航(乗継ぎを含む)が禁止された。
- ・ EU、ヨーロッパ自由貿易連合、トルコ、英国、アフガニスタン、フィリピン、マレーシアからのインドへの渡航(乗継ぎを含む)が禁止された。
- ・ 中国、韓国、イラン、イタリア、フランス、スペイン及びドイツへの渡航中止の強い勧告、並びに新型コロナウイルスの感染があった国への不急の渡航中止の勧告がなされている。
- ・ 韓国及びイタリアからインドに渡航しようとする者は、医療機関が発行する新型コロナウイルスに感染していないことを証する証明書を有していることを要する。その他の国からの渡航者も、自己申告書を提出する必要がある。
その他
- ・ インド災害管理法に基づき、インド全土での3月25日午前0時から21日間の完全なロックダウン命令が出されており、違反した場合、罰則が適用され得る。大多数の州・連邦直轄地で既にロックダウン命令が出されており、現地報道によれば、理由なく外出した者に実際に罰金支払命令が出されているとのことである。
- ・ 雇用主は、一般的に職場における従業員の安全・健康を確保すべき義務を負っており、新型コロナウイルスに関しても、従業員への情報提供、職場における衛生環境の確保、感染者・感染の可能性のある者の出勤停止(病気休暇等)、在宅勤務等の措置を検討すべきであるが、現在、インド全土で完全なロックダウン命令が出されており、一定の生活に不可欠なサービスや生活必需品の生産を除き在宅勤務となる。
- ・ 州によっては、州政府が、新型コロナウイルス拡大を理由とする解雇(契約社員の雇用止めを含む)や給料減額を雇用主が行わないよう通達を出している。
- ・ インド伝染病法の発動により、各州政府に、規則の制定を含め、新型コロナウイルス対策に関する広汎な権限が付与された。州により、当該州の感染病COVID-19規則(Epidemic Diseases, COVID-19 Regulations, 2020)を制定しており、新型コロナウイルスが確認された国等への渡航歴がある者の病院への報告義務、地方当局への感染地域の封鎖等を含む広汎な権限付与等が行われている。州によっては当局による立入検査も可能である。規則に違反した場合、罰則が適用され得る。
- ・ インド災害管理法が発動され、マスク等の価格統制が行われている。違反した場合、罰則が適用され得る。
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・ 財務大臣兼企業大臣は、以下を含む各種措置を公表した。
(ⅰ)インド会社法(Companies Act, 2013)及び関連規則上、財務諸表等を承認する取締役会は、テレビ会議を使用せず物理的に一堂に会して開催する必要があるが、テレビ会議使用禁止規制を6月30日まで免除する。
(ⅱ)インド会社法上、ある取締役会から次の取締役会までの期間は120日以内でなければならないが、9月30日まで、この期間を60日間延長する。
(ⅲ)2019-20年度から適用される予定であった監査報告書令(Companies [Auditor’s Report] Order, 2020)を、2020-21年度から適用する。
(ⅳ)インド会社法上、独立取締役は、年1回以上、非独立取締役及び経営陣が出席しない会議を開催する必要があるが、2019-20年度については、独立取締役が当該会議を開催できなくても上記要請の違反とはみなされない。
(ⅴ)インド会社法上、事業年度(基本的に4月1日~翌年3月31日)内に182日以上インドに滞在していた居住取締役が存在する必要があるが、かかる居住要件を充足できなくても違反とはみなされない。
(ⅵ)インド倒産法(Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)に基づく倒産処理手続開始申立てを行うための要件の1つである債務不履行額を、10万ルピーから1,000万ルピーとする。4月30日後も現在の状況が継続するようであれば、6か月間、倒産処理手続開始申立てに関する同法の規定を停止することを検討する。
(ⅶ)インド会社法上、一定の会社は、同法所定のCSR活動への支出が義務付けられているところ、新型コロナウイルスに関する支出はCSR活動への支出に含まれる。
(ⅷ)インド国内の会社等に対し、新型コロナウイルス感染拡大阻止に向けた活動として、Form CAR (Companies Affirmation of Readiness Towards COVID-19)を提出(オンライン提出)することを要請する。
(ⅸ)所得税・物品サービス税の税務申告や税金の支払いについて提出期限・納税時期が延長される。 -
・ インド証券取引委員会(Securities and Exchange Board of India)は、上場企業の年次財務諸表や四半期財務諸表等の継続開示書類の提出期限を、上場企業・書類の種類等により、約3週間から60日間延期した(例えば、株式上場企業の年次財務諸表の提出期限は1か月延期)。また、上場企業の取締役会及び監査委員会の開催頻度につき、ある会議から次の会議までの開催期間が120日以内でなければならないという上場規則の規制を、2019年12月1日から2020年6月30日までに開催される取締役会及び監査委員会に適用しないこととした。
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・ インド競争委員会(Competition Commission of India)が公表した通達によると、企業結合の届出その他の届出等が3月31日まで停止される。
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・ インド最高裁判所の命令により、3月15日から命令が出されるまで、時効期間が延長される。
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・ 現地報道によると、財務省(Ministry of Finance)が、太陽光発電デベロッパーに対し、新型コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱により、契約上の期限を遵守できなかったとしても、財務上の制裁を回避するため、不可抗力条項を発動することができると公表したとのことである。
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・ 従業員に感染者が出た場合、当局に報告する以外、第三者に感染者に関する情報を開示することは、インド情報技術法(Information Technology Act, 2000)の個人情報保護に関する規定に違反するので開示してはならない。
(やまもと・ただし)
2003年弁護士登録。2009年以降、インド現地法律事務所、日系証券会社・日系自動車メーカーのインド子会社へ出向。2014年から長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務を経て、現在は東京オフィス勤務。インド・ミャンマー等の新興国の案件を中心に携わる。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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