◇SH0119◇中国:意外と知らない不動産法の基礎知識 川合正倫(2014/10/28)

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中国:意外と知らない不動産法の基礎知識

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 1990年代前半に鄧小平により社会主義市場経済体制が導入され、その後の改革開放政策により中国経済が急速な発展を遂げたことは周知の事実である。2000年代に入り市場経済への転換に伴う法整備が加速し、昨今話題の独占禁止法(2008年8月1日施行)はその第1条(目的)において「市場における公平な競争を保護し、経済運用効率を向上」させることを唄っている。また、筆者が生活の拠点とする上海においては、超高層ビルが次々と建設され「白领」と称される知的エリート達が1杯30元(約500円)以上の外資系コーヒーショップのカップを片手に最新のスマートフォンを操作している姿をみると、資本主義国家に身を置いているような錯覚すら覚える。しかしながら、中国における不動産法は社会主義公有制のもと他の資本主義国家とは大きく異なる部分も少なくないため、外国企業による理解が十分に進んでいない分野といえる。本稿では、中国特有のポイントを中心に不動産法制についてその基礎を紹介する。

 まず、土地の所有権は、国家又は農民集団にのみ認められるものであり、外国籍か否かを問わず企業や個人が土地所有権を取得することは認められていない。このため、企業や個人が土地を使用するためには、国家が所有する土地について土地使用権の払下げ又は割当てを受ける必要がある。払下土地使用権とは入札・競売等の手続きを経た上で、土地管理部門との間で土地の用途、使用期間、払下金等を定めた契約を締結して、払下金を支払うことにより取得される土地使用権をいい、外商投資企業は、原則としてこの形態により土地を使用することになる。他方、割当土地使用権は土地管理部門が公用目的のもと無償で設定するものであり、外商投資企業は原則として割当てを受けることができない。

 国家から払下げにより取得した払下土地使用権は契約の範囲内で、譲渡・賃貸・担保設定することが認められている。このため、外商投資企業は土地使用権者から権利を譲り受け又は賃借することによっても、土地を使用することが可能である。

 払下土地使用権の使用期間については法定の上限があり、住宅用地については70年、工業用地については50年、商業用地については40年とされている。住宅用地は期間満了にあたって自動更新が可能とされているが、工業用地及び商業用地については更新認可の取得を要し、別途払下金を支払うこととされている。

 次に、建物については土地と異なり、企業又は個人による所有が認められている。ただし、外国企業による建物の取得は、原則として中国に開設した拠点を通じた自己使用目的の取得に限定されている。

 土地と建物の関係に関して「房随地走,地随房走」という中国特有の概念があり、建物(「房」)と土地(「地」)は基本的に随伴するとされている。具体的には、建物所有権者と土地使用権者は一致する必要があるとされ、また、建物に抵当権を設定する場合、土地使用権についても抵当権を設定することになり、建物と土地を別個の不動産として処分できる日本の物権法とは異なる取り扱いとなっている。

 不動産の賃貸借について、中国においては20年という期間制限があり、建物所有目的の土地賃貸借を除き原則として賃貸借契約に期間の上限はない日本法と異なる。また、日本の借地借家法にみられるような賃借人保護の制度は採用されていない。このため賃貸借期間が満了した場合に賃貸人が更新を拒絶するにあたっては正当事由が必要とされる日本法と異なり、賃貸借契約に別段の規定がない限り、賃借人は期間を更新するための強力な法的手段を有しない。このため、実務においても期間満了後の更新を予定していた企業が賃貸人側から過大な賃料の値上げを要求されるといった事態も散見される。賃貸借契約の締結にあたっては、賃貸借期間の設定及び期間満了時の取り扱いについて十分に注意して検討する必要がある。

 以上、日本法と異なる特徴的なポイントを中心に中国の不動産法制の基礎を述べた。中国進出時に十分な検討を経ずに土地・建物の利用に至っている現地法人も少なくないものと思われる。リスクマネジメントの一環として、現地法人の不動産の権利関係を改めて確認しておくことが望ましい。

 

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