☆シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報) 坂下 大(2020/04/03)

2020年4月2日号
シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)

                                                                                長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

はじめに

 4月1日に発表された日銀短観が7年ぶりにマイナスに転じるなど、新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動への影響が深刻化しています。また、諸外国における移動制限や事業所閉鎖の拡大に伴い、海外に子会社・関係会社を抱える企業からの問い合わせも増えているため、速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年4月1日夜時点で判明している情報に基づいています。

シンガポール

全体概況  死亡者:3人、感染者数(累計):926人(3月31日現在)

 比較的早期から厳格な入国制限や国内における感染者、濃厚接触者の隔離等の感染拡大防止措置を講じていたシンガポールは、3月初旬までは感染者数を1日数人程度に抑え込んでいたが、世界的な感染拡大を受けて、この1、2週間は1日あたり数十人の感染者が確認されるようになっており、その大半を国外で感染した後シンガポールに入国して発症したと思われる人が占めるようになっている(24日の感染者49人中32人が海外で感染したと確認されている)。かかる状況を受けて、現在は下記のとおり厳格な入国規制及び国内でのさらなる感染拡大防止措置がとられている。

 

主な政府発表

  1. ・ 保健省による、Disease Outbreak Response System Condition (DORSCON)と呼ばれる感染指標に基づくリスクレベルのオレンジへの引き上げ(2月7日)
  2. ・ 人材省による企業向け社内での感染者が確認された場合の対応ガイドラインの策定(2月21日、同27日、同28日)
  3. ・人材省(MOM)による、BCP(Business Continuity Plan)の策定等、雇用者としてとるべき措置に関するガイドラインのアップデート(3月16日)
  4. ・ MOMによる、従業員の海外渡航への対応に関する諸ガイドラインの策定(3月16日、同23日)
  5. ・ 政府タスクフォースよる、国内における感染拡大防止措置の更なる厳格化の発表(3月24日)
  6. ・ 外出禁止措置(Stay Home Notice:SHN)不遵守に対する罰則、及び上記感染拡大防止措置等を定めた感染症法の下位規則の施行(3月25日、同26日)

 

渡航情報

  1. 1. シンガポール国民、永住者、長期滞在パス(雇用パス等)保有者
     (1)渡航先を問わず、シンガポールに帰国する者は全員、自宅等での14日間の経過観察、SHNの対象とする。但し過去14日間に中国湖北省への渡航歴を有する者は隔離命令の対象とする。
     (2)上記に加え、長期滞在パス保有者は、シンガポールへの渡航前に、所轄官庁の事前の許可を得る必要がある。雇用パス保有者及びその家族等の場合、雇用者の責任において、事前にMOMの許可を得ることとされている。現在、このMOMの許可が得られるケースは極めて限定的であり、現在シンガポール国外にいる雇用パス保有者の多くは、当面シンガポールに再入国することが見込めない状況にある。
     (3)さらに、入国前に健康状態申告書(health declaration)を提出する必要がある。
  2. 2. 旅行者、出張者等の短期滞在者
     全ての入国及び乗継ぎを禁止。

 

その他

  1. ・当局のウェブサイトにおいて、各感染者の属性や既確認感染者とのリンク等の情報が比較的詳細に公開されている。また、登録者には、政府より1日1、2回程度の頻度でSNS(WhatsApp)を通じ新規感染者数その他の最新情報が配信されている。
  2. ・Trace Togetherという接触者管理のためのスマートフォンアプリが政府により開発、公開されている。アプリをダウンロードした端末間のBluetooth通信によりアプリ利用者の接触を記録し、アプリ利用者が感染した場合には、政府が当該記録を辿って過去の接触者に所要の連絡をとることが想定されている。
  3. ・関係省庁で構成されるタスクフォースにより、感染拡大防止のためにとるべき措置が策定され、随時アップデート(厳格化)されている。3月24日にこれがさらに厳格化されることが発表され、3月26日23時59分から4月30日まで、バーや娯楽施設の営業禁止、学校、職場外での10名超の会合の禁止、各人の間に1メートル以上の物理的間隔を設けること等の遵守が求められることとなった。
  4. ・3月26日に、感染症法(Infectious Diseases Act)の下位規則であるInfectious Diseases (Measures to Prevent Spread of COVID-19) Regulations 2020が施行されている。上記の感染拡大防止措置を主な内容とするもので、その違反には罰則が(10,000シンガポールドル(約76万円)以下の罰金若しくは6か月以下の懲役又はこれらの併科)設けられている。
  5. ・MOMは、従業員の物理的接触機会を減らすための措置をとっていないこと等を理由に、21の事業者に事業停止命令又は改善命令を行ったと発表した(3月23日)。
  6. ・雇用パス保有者(外国人労働者)の場合、SHNの遵守は、労働者と雇用者の共同の義務であるとされている(例えば、雇用者は、SHN期間中、労働者が食事や日用品を確保できるようにする義務を負う。)。SHNの遵守はスマートフォンアプリ等を通じて厳格にチェックされ、不遵守に対しては、(下記Infectious Diseases (COVID-19 – Stay Orders) Regulations 2020違反に基づく罰則適用に加えて)雇用パスの取消しや、雇用者に対する将来の雇用パス申請不許可等の厳格な処分が科され得る(実際にそのような処分例も報道されている。)。自社従業員がSHNの対象となる場合には、雇用者としてもその遵守について十分配慮をする必要がある。
  7. ・3月12日より、従業員の月給に影響を及ぼすコスト削減措置を講じた企業に対し、MOMへの通知が義務付けられている。
  8. ・従業員がSHN/LOAに服する場合に、当該期間は年次有給休暇を消化したものとして(雇用者の側が)扱うことの是非について、MOMは、当該期間中の在宅勤務の可能性を示唆した上で、在宅勤務が不可能である場合には(また特にSHN/LOAの原因となった海外渡航が業務関連のものであれば)追加の年次有給休暇を付与すべきこと(つまりSHN/LOA期間について年次有給休暇を消化したものとして扱わないこと)を推奨している。なお、政府のプログラムにより、雇用主は、申請により、かつ一定の条件の下で、SHN/LOAに服する従業員1人につき1日あたり100シンガポールドルの補償を受けることができる。
  9. ・3月25日より、感染症法(Infectious Diseases Act)の下位規則であるInfectious Diseases (COVID-19 – Stay Orders) Regulations 2020が施行されている。SHNの不遵守に罰則(10,000シンガポールドル(約76万円)以下の罰金若しくは6か月以下の懲役又はこれらの併科)が設けられている。

 

(さかした・ゆたか)

2007年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、クロスボーダー案件を含む多業種にわたるM&A、事業再生案件等に従事。2015年よりシンガポールを拠点とし、アジア各国におけるM&Aその他種々の企業法務に関するアドバイスを行っている。

慶應義塾大学法学部法律学科卒業、Duke University, The Fuqua School of Business卒業(MBA)。日本及び米国カリフォルニア州の弁護士資格を有する。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

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