(第2号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
【企業法務と私】(その1)
最初に企業法務という用語について振り返り、その後に企業法務と私との係わりを簡単に述べる。
企業で法務が意識されるようになったのは1960年代と言われている。1965年(昭和40年)の「40年不況」と呼ばれる大型不況により取引先の倒産が相次いだことや世間の耳目を集めた1967年の「東京ヒルトン仮処分事件」が発生したことがその原因の一つであろう。後者の事件では多くの経営者が、企業経営と法が極めて密接な関係にあることを肌身で理解した。
錚々たる学者の執筆による「経営法学全集」が刊行され始めたのもこの頃である。この全集の編集責任者で第1巻「経営と法」の著者である故石井照久教授が、そのまえがきで「企業の経営は、営利の精神を起動力として経済的合理主義のもとになされるものであるが、経営につき法が重要な意義をもっているということは、わが国においては、まだ、十分に理解されていないといってよい。」、「国際競争が、きびしさを加えんとしている折から、企業の体質改善の一つとして、この法意識の面における近代化を実現することも喫緊の要請であるといわなければならない。」と書かれていたのを今でも記憶している。
企業法務という用語であるが、この言葉が使用され始めたのはそれほど古いことではない。私が記憶している限り1986年4月発行のジュリスト857号の「座談会 これからの企業法務-その現状と課題」や堀 龍児「企業法務の最前線 商社法務の20年と現在の課題」が最初である。それまでは予防法学や経営法学という用語が使われていた。
企業法務という用語の意義あるいはこの用語が意味するところについては、説かれる人により様々に言われてきたし、現在でもいろんな意見がある。その幾つかを紹介する。「“企業法務”とは企業の経営目的のために企業組織および事業活動に関し遂行すべきすべての法律事務であって、企業が自己管理のために処理するものをいう。」(出川一夫)、「これらを要約すると“企業法務とは企業経営ないし企業活動における法的業務である。”とでも言えよう。ただし、近時、企業法務の本質は“法的リスクマネジメント”であるとする考え方が支配的であるようである。」(小川幸士)、「企業がその事業活動を遂行するにあたって発生してくるあらゆる法律問題に対して法的に適切でかつ企業にとって有利な対応・措置を講じることによって、企業の法的立場を保護するとともに企業に最大限の収益をもたらすような組織・活動であると考える。」(阿部道明)。
それぞれ傾聴に値する有益な定義であるが、私は簡単に「企業の経営及び事業活動により生ずるさまざまな問題について法的な立場から助言・勧告・提言を行うこと。」と考えてきた。そして、近年話題となっている「CSR経営」、「コンプライアンス(法令等遵守)」、「コーポレート・ガバナンス」、「内部統制システムの構築、内部統制報告制度」などについては、企業経営者自身が直接責任を持つべき事項ではあるが、同時に優れて法的問題でもあり、企業の法務部の助言と協力がなければ実現できない問題でもあると考えている。(次号に続く)
(以上)