(第8号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅰ.Freshmanのために・・・若いうちにこれだけはやっておこう(その5)
【商業登記簿・不動産登記簿をきっちりと読む】
法務部で業務を行っていると、その案件に関係する商業登記簿謄本や不動産登記簿謄本を入手し、読み、その内容を理解する必要がある場合が多く発生する。特に与信管理、担保取得、倒産処理に関連した業務では、これら登記簿に記載されている内容自体やその内容の裏に隠された真の意図をきっちりと理解し、評価しなければならない。
これらの読み方は最初は先輩に習うことになるが、大事なことは記載された内容を予断を持つことなく理解するという努力を続けることである。多分こういうことを示しているのだろうというのではなく、一つひとつの内容をきっちりと理解した上で次の記載に進むことが必要である。調べても理解できないときは先輩や専門家に聞けばよい。
丁寧に読んでいくといろんなことが分かる。担保価値を算定するために地方の下請加工事業者の不動産登記簿謄本を読んでいたときには、単位の間違い(“万”という字が抜けていた)や抹消忘れ(被担保債権が完済されており、担保権の抹消手続きが執られているにも拘わらず、共同担保物件の一部だけ担保権抹消がなされていなかった)など多くのミスに気が付いたものだ。また、担保設定後に購入された土地や新設された工場が追加として担保設定されていないケースも数多く目にした。(過去に設定された根抵当権についての設定契約書には、当然のことながらこれらについても追加担保として提供するとの規定があるはずである。)
新入社員のころに出席した任意整理についての債権者集会では、第1回集会で偶然に隣り合わせになり、その後の何回かの集会で顔馴染になった手形割引業者の中堅管理職が、会議が始まる前や休憩時間中に自慢話を交えつつ不動産登記簿の読み方について極めて具体的に話をしてくれた。その時の彼の発言で今でも記憶に残っているのは「あんた方は登記簿を前から順に読んで行くだろう。登記簿というものは後ろから 読むもんだ。」という言葉である。確かに後ろから読み、メモを取っていくと解りやすい。余談であるが、彼はこの任意整理に陥った会社の不動産を全て調べ上げ、工場敷地の中央部にあった未登記の小さな建物を探し出し、否認されることを承知の上で、根抵当権の設定を受けるということも行い、金融機関や大手取引先との間でこれを武器にいろいろと交渉していた。
また、地方にある取引先の所有不動産に根抵当権の設定を受ける案件で地方法務局出張所へ出向いたときは、たまたま同じように不動産登記を閲覧していた年配の司法書士から、お菓子とお茶をご馳走になりながら効率的な閲覧の方法を教わった。
商業登記簿の読み方については、親しくなった大手信用調査会社の調査部長から具体的な例を挙げつつ教わった。私の業務に直接に役に立つか否かは別にして、なるほどと思ったことも多々あった。
具体的に将来どのような分野の業務を担当するかは別にして、企業法務を担当する者の基礎知識として、これら登記簿の読み方については誰にも負けないと自負できる具体的な能力を身につけておく必要がある。
(以上)