銀行員30年、弁護士20年
第39回 資格取得をしようとする場合の心構え
弁護士 浜 中 善 彦
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法科大学院の教師をしていた時痛感したのは、受講生たちの司法試験受験の動機が漠然としており、合格への意欲がないとしか思えない学生が少なからずいたということである。社会人受講生の場合も、司法試験についての認識が甘いと思われるケースが少なくなかった。
学生であれ社会人であれ、受験を決意するからには、弁護士に対してなんとなく憧れてとか、サラリーマンになったが嫌になったからといったようなあいまいな動機で受験を志すべきではない。働きながら受験勉強をする場合はなおさらである。
かくいう私も、格別弁護士になってどうしようとか、弁護士の仕事についての認識があったわけではない。動機は、日本一難しい試験というので、それなら挑戦してみようというだけのことであった。何が何でも合格しようというほどの気持ちはなかったが、始めたからには、合格するまで勉強は続けようということは明確に意識していた。
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日本一難しい試験だから挑戦してみようと思ったというのは、動機としていかにも無目的なようにみえる。働きながら資格取得を目指す場合、その動機はいろいろある。私の経験では、漠然と、定年後に備えてというケースが最も多いように思われるが、資格を取ったからといって、定年後の保証にならないことは前にも書いたとおりである。なかには、趣味の1つとして勉強するという場合もある。この場合は、まず、取りやすい資格から始めるというケースが多いようである。
このように、試験勉強を始める動機はさまざまであるが、少なくとも社会人が資格取得を目指して勉強を始める場合は、動機のいかんを問わず、始めた以上は目的達成までは継続するという強い意志が必要である。趣味で勉強するという場合と、資格取得のために勉強するという場合とでは心構えが全く異なる。司法試験受験の場合は、受験科目をまんべんなく、しかも、何年にもわたって繰り返し勉強しなければならない。無駄な時間を極力少なくして、基本書を繰り返し読んで理解する以外に方法はない。考え方によっては、これくらい単調な作業はないようにも思える。しかし、受験勉強に限らず、仕事であれ何であれ、実は、この単調な作業を続けられるか否かが、何事にも極めて重要なことであると思う。
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受験勉強が楽しいかと問われると、人によって異なるかもしれないが、格別、楽しいと思った記憶はない。それでは苦痛だったかといわれると、それも違う。やると決めたからには、目標達成までやるというだけのことであった。
働きながら資格取得を目指す場合大事なことは、仕事とそれ以外の時間を明確に分けて、意識の切り替えができなければならない。仕事中も試験のことを考えたり、参考書を読んだりということがあってはならない。逆に、業後も仕事を持ち帰ったり、あれこれ考えるようでもいけない。あくまでも、仕事は仕事、勉強は勉強である。合格までは禁酒すべきだという人もあるが、私はそうはしなかった。もともと私は酒好きで、毎日晩酌をする習慣は受験中も変えなかった。酒をやめてまで司法試験をやろうとは思わなかった。そのかわり、夜型の生活習慣を朝型に変えた。資格取得のための勉強を苦行にする必要はない。しかし、それまでの生活をそのまま継続して資格取得ができるほど甘くはない。仕事に手抜きがあってはならないことはいうまでもない。
以上