◇SH0040◇フィリピン:競争法の整備状況と審議状況 澤山啓伍(2014/07/23)

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フィリピン:競争法の整備状況と審議状況

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

1. マニラの発展状況にそぐわない法整備の遅れ

 長らくベトナム・ハノイに住んでいた私からすれば、フィリピンの首都マニラは大都会である。金融・経済機能が集積しているマカティ市のみならず、他のエリアにおいても高層ビルが多く立ち並んでいる様子と、市内の交通渋滞のひどさは、ベトナムがまだまだ達しえていないところだ。

 法制度の面においても、アメリカの植民地支配の下でアメリカ法の影響を受けたフィリピンは、他のアジア諸国に比べても法整備が進んでいるような印象がある。しかし、今回ご紹介する競争法(日本での独占禁止法に該当する法律)の分野については、不思議なことに整備が立ち遅れている。

2. 現在の競争法関連規定

 現状フィリピンには包括的な競争法が存在していない。とはいえ、一切の不正競争行為が野放しにされているというわけでもない。1987年憲法の第12章第19節では、公共の利益のために必要な場合には国が独占を禁止又は規制すること、及び競争制限的な結合及び不正競争の禁止がうたわれている。これを受けて、改正刑法第185条では、公共入札での不正行為についての罰則が定められ、同法第186条では、価格カルテル等の取引制限行為等についての罰則が定められている。また、民法第28条では、不正競争により損害を受けた者による損害賠償請求権が定められている。その他、価格法、消費者法等においても不正競争を禁止する規定が置かれている。

 他方、市場分割合意やダンピングといった行為については、一般的にこれを禁止する法律はなく、個別の分野で規制がある場合があるという状況になっている。また、日本の公正取引委員会のような競争法の運用及び執行を行うための専任機関は設置されていない。

3. 競争法制定作業の状況

 このような競争法の整備の遅れについては政府も認識している。ASEAN加盟国は、2015年までにASEANが採択した競争政策についてのガイドラインに沿った法制度の整備を目指している。フィリピンにおいても、現任のアキノ大統領は、2010年の一般教書演説(State of Nation State)において、競争法の整備の必要性を述べていた。昨年の国会で審議されていた法案は制定には至らなかったが、下院の議長は今国会における競争法の制定について意欲を示している。

 現在、国会の貿易工業委員会に競争法の法案が多数提出され審議されている。最終的に制定される法律の内容がどうなるかは未だ定かではないが、提出されている法案に概ね定められている内容として、①公正取引委員会に相当する機関の設置、②不正競争の合意、独占的地位の濫用、競争制限的な合併の禁止などが挙げられている。

 したがって、法案が成立に至れば、日本や他のアジア諸国でも採用されている一般的な競争法の制度内容とほぼ同様のものになることが予想される。とはいえ、細かい部分で独自の制度が盛り込まれる可能性もあるため、競争法の制定とその後の運用の動きにつき、注視していく必要がある。

 

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