◇SH3506◇フィリピン:新型コロナウイルスの流行に伴う、企業結合届出が必要となる基準の一時的な緩和(1) 箕輪俊介(2021/03/01)

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フィリピン:新型コロナウイルスの流行に伴う、
企業結合届出が必要となる基準の一時的な緩和(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、フィリピンでは緊急事態下における迅速かつ的確な対応を取ることを可能にするよう、大統領に一時的に特別の権限を与えること等を規定した「Bayanihan To Heal as One Act」という法律(“Bayanihan”とはフィリピン社会でみられる伝統的相互扶助慣行であり、タガログ語で助け合いの意味合いを有する)が2020年3月に施行された。2020年9月現在でも1日数千人単位で新規感染者が確認され、累計で30万人を超える感染者が生じている現状に鑑み、その第二弾として、2020年9月11日、ドゥテルテ大統領は、「Bayanihan To Recover as One Act」、通称、Bayanihan 2と呼称される、法令第11494号に署名した(以下、「本法」という。)。当該法律の主たる規定の目的は、数千億円規模の特別予算を充ててヘルスワーカーの支援等の様々な施策を行い、新型コロナウイルスの影響に伴い大きな打撃を受けたフィリピン経済の立て直しを図ることにあるが、その一環として、企業結合届出が必要となる基準の一時的な緩和も規定されているので、本稿にて解説したい。

 

1. 従前の内容

 まず、本法の内容に進む前に、フィリピン法下における企業結合届出の現行の内容(本法施行前の内容)について確認をしたい。

 フィリピン競争法(Republic Act No. 10667、Philippine Competition Act)上、一定以上の規模のM&A取引を行う当事者は、フィリピン競争法委員会(the Philippine Competition Commission)(以下、「PCC」という。)に対して届出を行う義務があり、その届出に関するPCCの承認が出るまでその取引の実行が禁止される。企業結合届出の対象になる取引か否かは以下の当事者テスト及び取引テストのいずれの基準も充たすか否かで判断がなされる。

 

(1)当事者テスト

 当事者のいずれかが帰属する企業グループがフィリピン国内に60億フィリピンペソ(約130億円)を超える資産を有している場合、又は、当該グループのフィリピン国内若しくはフィリピンに関連する取引における総収益が年間60億フィリピンペソを超える場合

 

(2)取引テスト(以下の(a)又は(b)のいずれか)

  1. (a)  次のいずれか等[1]に該当する取得取引
    1. ①    フィリピン国内の資産取得に係る取引で、(i)当該対象資産が24億フィリピンペソ(約52億円)を超える価値を有する場合、又は、(ii)当該対象資産から生じるフィリピン国内での総収益が年間24億フィリピンペソを超える場合
    2.  
    3. ②    フィリピン国外の資産取得に係る取引で(i)買主が24億フィリピンペソを超える資産をフィリピン国内に有しており、かつ、(ii)当該国外で取得される対象資産によるフィリピン国内での総収益が年間24億フィリピンペソを超える場合
    4.  
  2. (b)  合弁事業に関する取引については(i)当該事業に関する資産が24億フィリピンペソを超える価値を有する場合、又は、(ii)当該対象資産から生じる総収益が年間24億フィリピンペソを超える場合

 なお、上記の金額基準はフィリピン統計機構(the Philippine Statistics Authority)が公表する公式の名目GDP予測を踏まえて毎年見直しがなされており、2020年3月1日以前は当事者テスト及び取引テストの基準はそれぞれ56億フィリピンペソ(約122億円)及び22億フィリピンペソ(約48億円)であった。

 

(2)につづく



[1] 他にも資産取得のみならず、株式又は持分の取得の類型を含めて2類型があるが、紙面の関係で割愛する。

 


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(みのわ・しゅんすけ)

2005年東京大学法学部卒業、2007年一橋大学大学院法学研究科(法科大学院・司法試験合格により)退学。2014 年Duke University School of Law 卒業(LL.M.)、2014 年Ashurst LLP(ロンドン)勤務を経て、2014 年より長島・大野・常松法律事務所バンコク・オフィス勤務。

バンコク赴任前は、中国を中心としたアジア諸国への日本企業の進出支援、並びに、金融法務、銀行法務及び不動産取引を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、タイ及びその周辺国への日本企業の進出、並びに、在タイ日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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