◇SH0142◇企業法務よしなしごと-ある企業法務人の蹣跚38 平田政和(2014/11/21)

そのほか法務組織運営、法務業界

(第38号)

企業法務よしなしごと

・・・ある企業法務人の蹣跚(まんさん)・・・

平 田 政 和

Ⅳ.Seniorのために・・・将来を見据えよう(その1)

【企業の良心】

 十数年前に経営法友会加盟各社の新人法務部員130名ほどを対象に「法務部の役割と法務担当者のあり方」と題して二時間ほど話をしたことがある。法務部の役割については、企業における法務の発展とその意義、企業法務の担当組織、法務部の担当業務、近時の企業法務における重要課題、といった内容を話し、法務担当者のあり方では、期待される法務担当者、仕事の取り組み姿勢、法務能力の向上、弁護士などの社外専門家との連携などについて話をした。

 最後に「入社間もない皆さんには、まだピンとこない問題かも分からないが、あえて申し上げたい、皆さんによく考えていただきたい問題が一つある。」と次のようなことを話した。

 残念ながら、過去には企業経営に関して重大な犯罪が行われたという報道を目にすることがあった。そのうちの幾つかは経営トップやそれに近い幹部が直接または間接に関与したものとされているが、報道では法務部の関知しないところで行われたもののようであった。

  そこで、質問であるが、もし仮に法務部の機能が十分に作用していて、法務部がその内容を事前に察知しあるいは相談や報告を受けているような状況のもと、違法行為が行われるというような極めて異常なケースが生じたとしたら、法務部としてどのように対処したらいいか。

 法務部が企業経営の最高幹部の考え方に迎合して犯罪に加担するようなことは論外であるが、それではどうするか。

   ①あくまで最高幹部の不法な行為を制止するために、左遷を覚悟して、徹底的に抵抗すべきか、②法務部の制止にも拘わらず、最高幹部が考えを改めないときは、法務部の責任のある地位に就いている者はいさぎよく職を辞すべきであるという考え方はどうか、③その行為の不法性を十分に説明しても、分かってもらえない場合は、もはや法務部の能力の限界を超える問題であって、法務部としては傍観せざるを得ないとも考えられる。現時点で皆さんはどのように考えられるだろうか。

 この問題は、法務部があるいはその存在が「社会的にどのような評価を得ることになるか。」ということと深く関係する問題である。これは主として法務部の運営に責任を持つ役職者に向けられる問題であろうが、新しく法務部に配属された皆さんを始め、法務部に在籍する者全てが一度は深く考えてみるべき問題でもある。

 このような話をした。これについて参加者がどのような感想を持ったかについては聞く機会がなかったが、株主を始めとするステーク・ホルダーが企業に対して社会的責任の履行を強く求め、企業の不祥事に対して強い姿勢で臨むようになった現代においては、法務部の役割を考えるにあたって極めて重要な問題である。

   企業における法務の内容にも変化が生じ、新たな業務としてコーポレート・ガバナンス、コンプライアンス、内部統制システム、反社会的勢力対応など関する業務が加わっている。このことは法務部が「企業の良心」として活動することが期待されていることを示しているであろう。

 なお、最近では、法務部の活動について、法務部の業務も監査役監査の対象であることや会社が取締役に対し訴えを提起する場合等において会社の組織としての法務部が監査役の指揮下に入ることも念頭に置きつつ、違法行為との関係においては「最後の砦」ともされている監査役との連携も考えるべきではないかと思っている。

(以上)

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