(第40号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅳ.Seniorのために・・・将来を見据えよう(その3)
【企業法務の担当組織について考える】
企業法務を一元的・集中的に管理・担当すべきか、多元的・分散的に行うべきか、子会社の法務問題も含めて親会社が担当すべきか否か、については多面的に検討すべき問題である。
第一の問題について、一元的・集中的に管理・担当すべきとの観点からは、①人的資源と情報の集中による法務機能のレベルアップが期待できる、②法務部要員の監督・管理が容易である、③法務部の一体感が確保されやすい、④法的助言や法的対応の一体性の確保が容易である、⑤分散化による業務の重複を避けやすい、といった利点が考えられる。
多元的・分散的に管理・担当すべきとの観点からは、①法務部の組織を営業部門・生産部門等の現実に法務部に依頼や相談を持ちかける部門に近いところに配置することによりこれら依頼や相談に迅速に対応できる、②これら依頼や相談を持ちかける部門の生きた情報の入手が容易である、といった効用がある。
また、第二の問題については、第一の問題と同様のことに加えて、子会社の規模や親会社との事業内容の関連性の観点からも検討する必要がある。即ち、子会社であっても規模の大きな会社では、やはり自らの法務部を持つことが必要であると思われる。
更に、親会社の事業内容からかなり離れた内容の事業を担当している会社に対しては、相談や対応が親会社では上手くできないことも予想されるので、子会社の事業に直接関係する法務問題に対応する組織が規模が小さくても必要であろう。
コンプライアンス、コーポレート・ガバナンス、内部統制システム、反社会的勢力対応などグループ企業全体に関連する問題については親会社の法務部がグループ企業全体の観点から対応するのが望ましい。
かつて私が安全保障貿易管理を担当する輸出管理室の長であったときには、通産省(当時)の担当官と種々議論した上で、多くの企業が採用していた雛型に沿ったものではなく、親会社がグループ企業全体の安全保障貿易管理を担当することを明確に定めた当社グループ独自のコンプライアンス・プログラムを策定し、通産省に届け出た。
この企業法務担当組織問題は、現実には、各社とも試行錯誤あるいは事業の発展段階に応じて適宜変化させ修正しながら対応してきており、この姿勢・方向性は将来とも変わらないであろう。
経験では、法務部の中心的な組織は東京の本社(本店)に置きながら、一ヶ所であったが駐在、分室の形で大阪の本社に法務部の組織を置き、大阪の営業部門・スタッフ部門や大阪に近い工場の法務問題の相談・対応を行っていたが、不況による要員の削減問題が発生したときに、東京に集中したことがある。子会社については要員の問題もあったが、規模の大きな会社には法務部を設置した。
電子機器やその活用が広がった現在では、一元的・集中的に管理・担当しても多元的・分散的な管理・担当の利点も享受できる、との考えもあるが、現実に顔を合わせての議論によるメリットも捨て難いのではないか、と思っている。
「現実に顔を合わせる」ことについて、変なことを覚えている。東京の本社の要員が増え、一部の事業部門が隣のビルに移った。それに従って親しい先輩、後輩や同期の仲間の何人かが隣のビルの住人になった。数ヶ月後に彼らから異口同音に聞かされたのは「不便になった。」という言葉とともに「情報が少なくなった。」という内容だった。
トイレや廊下で、あるいはエレベーターの中で、顔を合わせてのちょっとした意見交換や情報交換ができなくなり、なんとなく疎外感を持ったようだ。重要な情報は当然に正式なルートや方法で連絡・伝達されるが、それ以外のある意味では「くだらない」情報が入らないことをそのような表現で言ったのではないかと思ったことである。
確かに、廊下やエレベーターの中でのちょっとした会話がきっかけで、トラブルや法律問題の対応について正式に法務部へ照会がなされたことも多い。
(以上)