◇SH0168◇東京地裁刑事第18部(稗田雅洋裁判長)、独禁法違反事件で有罪判決 工藤良平(2014/12/16)

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東京地裁刑事第18部(稗田雅洋裁判長)、独禁法違反事件で有罪判決

岩田合同法律事務所

弁護士 工 藤 良 平

 東京地裁は、本年11月12日、独立行政法人鉄道・運輸機構が発注する北陸新幹線の融雪基地機械設備工事及び消雪基地機械設備工事の入札に関し、管工事業界の合計11社が談合し、予め受注予定業者を決め、当該受注予定業者が受注できるよう協力する旨の入札談合を行ったとして、談合に参加した1社である被告会社に対して、独禁法違反により、罰金1億6000万円、及び担当従業員(当時)に対して懲役1年6月(執行猶予3年)の判決を言い渡した。

 管工事業界における独禁法違反で刑事処分が行われた事例としては、平成18年に発覚した防衛施設庁の談合事件において、関与した事業者及び従業者が刑事処分を受けた事例がある。本件では、公正取引委員会(以下「公取委」という。)が、本年3月4日に被告会社及び従業員に対して刑事告発を行っており、公取委が平成2年に刑事告発に係る方針を定めてから数えて15件目(平成17年の独禁法改正で犯則調査権限が導入されてから6件目)の刑事告発事案である。なお、公取委が刑事告発を行ったのは、平成24年6月のベアリング・カルテル事件以来であり、また入札談合事件の刑事告発としては平成19年5月に告発された緑資源機構発注の事件以来である。本件の判決では、量刑を重くする要素として、談合による落札額が合計174億7000万円に上る国家的プロジェクトである大規模公共工事であること、過去に管工事業界では防衛施設庁談合事件による刑事処分等が行われていたこと、当初のヒアリングにおいて談合を否定したこと、被告人が談合に不可欠な役割を果たしたこと等が挙げられている一方で、入札を行った鉄道・運輸機構の関係者が入札予定価格に関する情報を教示したこと等発注者側の関与があったことは、罪責を軽減する理由とはならない旨等が判示されている。

 公取委は、独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針において、「価格カルテル、供給量制限カルテル、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット、私的独占その他の違反行為であって、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案」、「違反を反復して行っている事業者・業界、排除措置に従わない事業者等に係る違反行為のうち、公正取引委員会の行う行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案」について、積極的に刑事処分を求めて告発を行う方針である旨を公表しており、今後とも価格カルテルや入札談合、国際カルテル等に関する法執行を優先課題として行う旨を表明している。本件の刑事告発も、かかる公取委の方針に沿って行われた旨、公取委事務総長が定例会見で述べている。

 経済活動のグローバル化に伴う競争法ルールの国際標準化や、リニエンシー制度(カルテル・談合の自主申告により、一定の場合に課徴金が減免され、そのうち一部のものについては刑事告発が行われないというメリットがある)の積極的な利用により、従前は発覚していなかったカルテル・談合についても、発覚する可能性は年々高まっていると考えられる(本件でも、談合に参加した会社によるリニエンシー申請が行われている)。

 近年では、取締役が会社に対して負う善管注意義務・忠実義務の内容として、カルテル・談合等に直接関与していない取締役であっても、カルテル・談合等を未然に防止するためのコンプライアンス体制の整備義務や、カルテル・談合等が発見された場合には速やかにリニエンシーを申請する義務を負っているとの主張もされているところである。

 以上の独禁法に係る法執行等の状況を踏まえ、各企業において、今後独禁法のコンプライアンス体制を整備・拡充する必要性は、年々高まりつつあるといえよう。

 

公取委・裁判所によるカルテルにおける「意思の連絡」の認定手法

◎  意思の連絡

●  明示の合意(本件における認定方法):日時・場所・内容等につき、明示的に合意

※なお、本件のような「明示の合意」がない場合でも、以下の「黙示の合意」があれば、「意思の連絡」ありと認定され得る

●  黙示の合意:「特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして、同一又はこれに準ずる行動に出た場合には、右行動が他の事業者とは無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者の間に、協調的行動をとることを期待し合う関係があり、右の「意思の連絡」があるものと推認される」(平成6年(行ケ)第144号東芝ケミカル(株)による審決取消請求事件)

→すなわち、①事前の価格に関する情報交換、及び②その後同一の価格引上げ行為、という事実が立証された場合、「意思の連絡」があったことが、事実上推認されてしまうという点に注意

 

(くどう・りょうへい)

岩田合同法律事務所アソシエイト。日本及び米国(NY州)弁護士。2002年東京大学法学部卒業。2006年コロンビア大学ロースクール(LL.M.)修了。2010年東京大学法科大学院修了。2013年シンガポール国際仲裁センター出向。国内外における紛争解決に加え、企業法務全般(特に国際商取引)に係る助言を行う。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

<連絡先>

〒100-6310 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング10階 電話 03-3214-6205(代表) 

 
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