◇SH0176◇企業法務よしなしごと―ある企業法務人の蹣跚48 平田政和(2015/01/06)

そのほか法務組織運営、法務業界

(第48号)

企業法務よしなしごと

・・・ある企業法務人の蹣跚(まんさん)・・・

 

平 田 政 和

 

Ⅳ.Seniorのために・・・将来を見据えよう(その11)

【解説書やマニュアルの作成による法務業務の効率化と法務部員のレベルアップ】(その1)

 

 法務業務の効率化と法務部員の実力の涵養、レベルアップのために何をなすべきか。目的意識を持たせ、方向性を示し、自己啓発に励むよう指導することも大切であるが、正直なところなかなか期待通りの行動をとる人は少ない。

 市販の法律解説書やマニュアルの焼き直しのようなものではなく、自社の業務の実態やその特性をよく理解した上で、法務部全体で、あるいは法務部を構成する個別グループによって実務に即したマニュアルを作成することにより、業務の効率化や実力の涵養を図ることができる。

 ここで大切なことは、単なる法律の解説書の作成ではなく、自社の業務の実態に即した、関係各部の業務遂行に真に役に立つ、体系的ではないが、オリジナルなものを目指すということである。

 他社で独占禁止法違反問題が発生し、社会的にも大きな問題となったことを契機に自社でも独占禁止法マニュアルを作ろうと考える人は多い。

 私的独占に始まり罰則に至るまでの独占禁止法や関連法令の易しい解説書ならベテランの法務部員は、今までの経験や幾つかの図書を参考に、極めて短時間に作成することができる。そしてそれを関係部署に配布すると同時に、部門ごと階層ごとに説明会を開催する。これで目的を達したように思いがちである。

 このようなことでは、そのマニュアルの作成や解説に直接かかわった法務部員の実力の涵養に少しは役立つことはあるとしても、本来のマニュアル作成の目的から考えると目的達成というには大きな疑問が残る。

 それでは、どのようにすべきか。「独占禁止法遵守プログラム」を例に私の経験を書いてみよう。

 ベテランの営業責任者や購買責任者から折に触れて聞かされ教えて貰っていた内容や関係各部からの照会により、自社の実務における独占禁止法上の留意点・注意点については、ある程度の理解をしていた。そこでこれらの知識をベースに、実務の流れを念頭に、極めて詳細かつ具体的なヒアリング・シートを作った。

 例えば、「同業者の集まりには、公式・非公式を含めて、どのようなものがあるか、いつどのように招集されるか、開催は定期的か、出席者の階層はどのようなものか、議題やテーマは誰がどのようにして決めるのか、議事録は作成しているか」、「同業者の集まりで、販売価格、値上げ幅、値下げ額、割戻し額、将来の販売価格、将来の需給見通しが話題になることがあるか、過去の販売価格に関する報告をすることがあるか、これらが議題になった場合、どのような行動をとっているか」、「同業者の集まりで、生産数量、将来の生産予定が話題になることがあるか、これらが話題になったときどのような行動をとってきたか」、「下請業者や販売先との間で共同研究や共同開発をするときに開発成果の帰属についてどのような取り決めをしているか、開発成果の事業化に際し、原材料の使用や製品の製造・販売についてどのような規定をしているか」、「他社製品との性能を比較したパンフレットやカタログについて、どのような表現をしているか」などの問題について、その通りに質問し、正直な回答を得れば実態が焙り出されるような質問書を念入りに作った。

 質問書は20数頁になったと記憶しているが、A3判の用紙の左半分に質問を記載し、右半分にヒアリングした結果を書き入れるようにした。私が原案を作成したこの質問書の内容については、その趣旨の徹底とともに実態が焙り出されるような内容とすべく法務部内で何度も議論を重ねた。

 この質問書を手に、法務部所属の部長・次長クラス5名が若手部員とともに、関係各部の部長に直接ヒアリングし、回答の欄を埋めていった。

 関係各部の部長には、実務に即した独占禁止法マニュアル作成のためのヒアリングであり、回答内容は法務部外には一切出さない、マニュアルが完成した段階では回答が記載された質問書は裁断処分する、ことを確約し、正直に実態を話してくれるように依頼した。それまでに培ってきた法務部との友好関係もあり、彼らは正直に話してくれたと思っている。

 担当役員には業務報告の一環として、法務部がこういったことを行っていることは報告したが、それを聞いた役員は、自分にもヒアリング結果を教えるようにと言った。

 私は関係各部長との約束もあり、秘密保持の観点からも断った方がよいと判断し、「ご存じ無い方がいいと思います。」という表現で断った。私の意図を読み取ったかどうかは不明であるが、彼は以後このことについては、完成したマニュアルを持参し、完成の旨を報告するまで、何も言わなかった。ヒアリング・シートはマニュアルの確定稿が完成した時点で、裁断処分した。(次号に続く)

(以上)

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