(第51号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅳ.Seniorのために・・・将来を見据えよう(その14)
【社内講習会の講師】
①新入社員教育を始めとして新しく管理職に登用された人材に対する教育など全社教育体系に組み入れられた法務教育、②会社の事業や経営に直接間接に関係する新規立法や法律改正のPR、③企業を取り巻く環境の変化に対応するための法務的観点からの方策・施策の説明など、法務部員が講師を務める社内講習会は多い。
法務部としては受け身ではなく積極的にこのような場を活用するとともに、必要と考えた場合は、自らが中心となり社内講習会を開催し、適宜適切な情報を連絡し社内法務マインドの涵養に努め、法務部への親近感を得るよう努力すべきである。
講師を務めるに当たり対象となる法律やテーマについてきっちりと正しく理解していることは当然として、最も大切なことは自社の経営や事業活動との関わりの観点からの説明である。
単なる法律解釈をするだけでは意味が無い。自社や取引先も含めた自社グループの経営や事業活動の観点からの具体的かつ実務的な説明や解説でなければならない。実務を充分に理解した上で、具体的に対応策を作成しそれを解りやすく説明することは大変に手間のかかる業務になるが、これをしなければならない。
当該新規立法や法律改正の内容だけを順を追って説明したり、体系に拘るあまり自社やグループ企業の経営や事業活動に関係しない内容に時間をかけたりするようなことでは、聞く方にとっても時間の無駄である。当たり前のことであるが、このことを理解していない人も多い。
説明や解説の内容については次のような思い出がある。
公益通報者保護法が制定された頃の話である。当時、私は常勤の社外監査役であった。私は企業法務の先輩として、法務部の責任者に会社の内部通報制度との関係も踏まえて、実務的な観点からの講習会を事業所所在地で、早めに、何度か開催するようにとのアドバイスをしていた。しかし、法務部の責任者の動きは鈍かった。
そうこうしているうちに、経営トップから法務部に対し、内部通報制度の窓口の一つを担当して戴いている顧問弁護士に、この法律について従業員集会で説明してもらうように、との指示が出された。
これを聞いて私は、法務部の責任者に、講師をして下さる顧問弁護士に「単なる法律の解説ではなく、当社の事業や内部通報制度との関係を踏まえた具体的な、実務的な話をして戴きたい。」と依頼するように、と話した。
そのために事前に講師に会い、話して貰う内容について充分に打ち合わせをしておくようにとも付け加えた。若干のヒントも与えた。しかし、彼は何もしなかったのだろう。当日の顧問弁護士の話は法律の解説に止まり、会場に集まった従業員には関係のない話が多く、講師には申し訳ないが、評判が悪かった。
私自身も幾つかの法律に関して実務に即した解説をしたことがある。30代の始めだったと記憶しているが、日本化学繊維協会品質表示専門委員会委員として、全国の縫製産地を巡り、商品添付ラベルの表示に関する家庭用品品質表示法の改正内容を周知徹底するための講演会の講師を務めた。
また、不正競争防止法が改正され「営業秘密」が規定されたときには、「営業秘密」につきその保護および管理に関する社内基準の作成や関係者に対する具体的な対応策についての講義を行った。
いずれも、単なる法律内容の説明ではなく、実務の観点からの留意点、注意事項を中心に実務に即した内容とするよう最大の努力をしたつもりである。
(以上)